スターインタビュー
インタビュー:悲しみ宿る瞳のチョン・ウヒ
「一体どんな人生を歩んできたの?」
チョン・ウヒ(27)がよく受ける質問だ。映画『サニー 永遠の仲間たち』(2011年)では、ボンドに含まれるシンナーを吸って割れた瓶を振り回す10代の不良少女役だったが、映画『優雅な嘘(うそ)』(14年)では空回りばかりしている父親に代わり、弟妹の世話をする一家の大黒柱の少女役を演じた。そして今回『ハン・ゴンジュ』(イ・スジン監督、17日公開)で演じたのは、同年代の少年に性的暴行を受ける女子高生役。そのたびにチョン・ウヒは、恵まれない者しか持ち得ない悲しみを宿した瞳と切ないほほ笑みを見せる。
チョン・ウヒは「普通の家庭で、家族に愛されて育った」と答えた。そしてみけんにシワが寄るほど笑った。
「順調な人生を送れていないという設定で、(演じるのが)難しい役が来るたび、『私はどうしてこんなにつらい思いをするのだろうか』とため息をついたことはある。でも、今はあまりにもそういう役が多いので『これこそ私の業(ごう)だな』と思っている。いつも自分の役を演じ切り、メッセージを伝えることができるので、『私は選ばれた人間なんだ』と信じることにした」
チョン・ウヒ主演の『ハン・ゴンジュ』は、04年に慶尚南道密陽で発生した女子中学生集団強姦(ごうかん)事件をモチーフにした作品だ。公開から9日後の25日に累積観客数10万人を超えた。韓国の独立系映画としては最短記録だ。さらに、韓国で公開される前から国際映画祭で9冠を達成、チョン・ウヒはマラケシュ国際映画祭に出席したフランスの女優マリオン・コティヤールに「演技がとても素晴らしくて驚くほど。ファンになりそうだ」と言われた。今年はまだ3分の1しか過ぎていないが、『ハン・ゴンジュ』とチョン・ウヒは既に「今年の韓国映画の発見」とも言われている。
性犯罪の被害者をヒロインにしているが、『ハン・ゴンジュ』という映画は泣きも怒りもしない。口数が少なく無表情のハン・ゴンジュをめぐる事情や心の内は、映画が終わるころようやく輪郭を見せる。むしろ、泣きわめいて騒いでくれた方が映画を見る側としては気が楽なのかもしれない。チョン・ウヒは「同じようなエピソードを描いている別の映画を見たところ、被害者である主人公が感情をむき出しにしていた。だが、実際に被害に遭った人がそんなことをするだろうか。むしろ自身の心の傷や感情を隠そうとするのではないか。ごく普通の人でもつらいことがあれば『私は今、つらい』と言えないだろう」と語った。
「演技はつらくなかった。その代わり観客がこの映画で傷付いたり、人物がうそっぽいと言われたりして受け入れられないのでは、と思って慎重になった。私は写実的にアプローチできる方法を探さなければならない。それは徹底的に隠すことだった。心を病み、ズタズタになって、あらゆる感情が揺らいだとしても、それを抑え込む。自分がゴンジュだったら、そうした状況では何をどうしても変わらないことが分かっているから、逆に隠そうとしたと思う」
チョン・ウヒはハン・ゴンジュ役を手にするためにオーディションを受けた。「監督は当初、私を嫌がっていた」という。『サニー』での「シンナー遊びをする女」のイメージが強すぎて、ハン・ゴンジュのイメージではないと思われたのだ。実際、『ハン・ゴンジュ』公開前にインターネットで「チョン・ウヒ」と入力すれば、関連検索キーワードに「『サニー』のシンナー遊び女」と出ることが多かった。チョン・ウヒは「『サニー』前に私の姿を見ることがなかったのでは。『シンナー遊び女』より『ゴンジュ』の方がより印象深くできる」と監督を説得した。それでもチョン・ウヒは「『シンナー遊び女』が負担になったことは一度もない。それ以外にもうまくできる自信があったから、焦ることもなかった」と語った。
「いずれにせよ、私のことを知ってもらえるきっかけになった役。そして、私は背も低い方だし、平凡な顔立ち。『たいしたことない』と思ってバカにしたり無視したりする人もけっこういたけれど『シンナー遊び女』以降はそんな風に失礼な態度の人がいなくなった。でも、これからは楽しい20代も演じてみたい」
次の作品は『カート』。大型スーパーで非正規職として働いていたが、クビになるという役だ。チョン・ウヒのような女優がごく普通の女性の役を演じるとしても、一筋縄ではいかないだろう。