人間とは忘却する生き物だ。そして適応の鬼才でもある。過去の苦痛を忘れることで、現実に適応することができる。そしてまた、未来を夢見るようになる。

 これまで7カ月間・全140話にわたり、お茶の間を楽しませた女優キョン・スジンもそうだった。昨日の失敗は振り払い、きょうの現場に集中した。だから明日を思い、わくわくすることができた。より成長するキョン・スジンに期待することができた。「次回はもっとよくなるだろう、次の作品ではもっと発展できるだろう」。自分にかけた呪文は真心に通じた。テレビ小説『ウンヒ』(KBS第2)を終えたキョン・スジンは、第1話撮影時に比べ、成長した自分を発見した。

 「もうカメラの前に立つことが怖くありません。初めて経験したセットでの室内照明装置からオーディオまで。全てが見慣れなくて、きちんとできているのか分からずうろたえたこともありますが、その分だけ学ぶことができました。次の作品に臨むときは、難なく自然な姿でカメラを見詰めること、カメラの前に立つこと、多くのスタッフの視線に打ち勝つことができそうです」

 キョン・スジンの言うとおりだ。ドラマ『赤道の男』(KBS第2)でイ・ボヨンの子ども時代を演じデビューしたときに会ったキョン・スジンと、『ウンヒ』の主人公として7カ月やってきたキョン・スジンは、明らかに違う人物だった。すらすら話ができたし、表情一つ一つに感情が込められていた。演技に対する情熱、何でもやり遂げようという意気込みだけで、まだ洗練されていなかった新人の「服」を脱ぎ捨てたようだ。

 「表情が自然になり、トーンが安定してきたと言われました。たぶん、安らかな顔になったという反応が最も多かったように思います。本当に、カメラ・マッサージというのがあるんですね。カメラの前で浮かべる表情は明らかに普段とは違いますから、どうしても使っていなかった筋肉を使うようになり『演技者らしい顔』になっていくのではないかと思います。だから、そのような反応を受けるたび、キャラクターを生かさなければという欲が出てきました」

 そのような悟りを得るのは容易ではなかった。キョン・スジンは昨年のKBS演技大賞で新人賞を受賞したニューフェイスだ。『赤道の男』に続き『サメ~愛の黙示録~』(KBS第2)まで、誰かの子ども時代を演じてきた。そうしているうちに『その冬、風が吹く』(SBS)でチョ・インソンの初恋の女性として特別出演し、『馬医』(MBC)では時代劇に挑戦、秋夕(中秋節)特別ドラマ『意気地なしのソンピョン』(MBC)に出演したのが経歴の全てだ。全140話、それもタイトル・ロールを任され、揺らぐことなく毎日行われる撮影に臨むのは大変だったはずだ。

 「中間くらいで過渡期が訪れました。一言で言うと、演技に対する迷いでしょう。とにかく、このように長い作品は初めてでしたから。撮影は毎日続くのに、私はだんだんさ迷うようで。特に、途中で数年間、ドラマの設定が時間的に飛ぶケースがあったのですが、そのとき重心を取るのが大変でした。本当にありがたいことに、パク・ヒョジョン先生やほかの先輩方がそれに気づいてくださいました。見ただけで『ああ、あの時期が来たんだな』と感じたそうです。演じるときの口調、ポイント、キャラクター、全ての細かい部分でアドバイスをくださいました。それがなかったら『ウンヒ』をこうして終えることはできなかったでしょう」

 『ウンヒ』で学んだのは、ドラマの中だけではない。それはドラマが終わった後も続いた。『ウンヒ』出演者のうち一人だけ、スタッフ全員との旅行に参加したキョン・スジンは「行かなかったらとても後悔したはずです」と話し、当時を振り返った。

 「どこであんな話を聞くことができるでしょうか。お金を払っても受けられない授業でした。撮影前に、どのように演じればよいか照明監督とも話をすると役に立つとか、眼差しに気持ちを込めなければ演技を生かせないという現場の話、覚えておかなければならない話が本当にたくさんありました。『ウンヒ』を終えたとき『ああ、残念。もっとやりたかった。こんな風に終わってしまうなんて』と悔しい思いをしたけれど、あの旅行のおかげできちんと終えることができたと思います」

 『ウンヒ』は現代の文化コンテンツに熱狂する10-30代の視聴者にとって、なじみの薄い作品だ。放送時間は朝、時代背景が古く、若い世代にアピールするには限界があった。にもかかわらず、終了間際には全国視聴率16%を突破したほか、一部地域では20%を超えるなど人気を集めた。

 「『ウンヒ』としてだいぶ長く生きてきました。早く新しいものをしてみたいです。これまで、とても面白いドラマや映画がたくさんありました。ドラマ『秘密』を見ながら『私もこんな風に演じることができるだろうか』『私に合うだろうか』と考えたこともあります。個人的には、私と似たようなキャラクターを演じてみたいです。『個人の趣向』でソン・イェジン先輩が演じたような役を」

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