韓国芸能事件簿
介護疲れで韓流アイドル一家崩壊の悲劇
人気アイドルグループ「SUPER JUNIOR」のリーダー、イトゥク(本名:パク・チョンス)さん(30)の父親(57)と祖父(84)、祖母(79)が心中(7日付本紙報道)した背景には、長期間にわたる祖父母の認知症介護と、個人事業の不振に伴う経済的困窮、そしてこれらをきっかけとしたうつ病などが背景にあったことが警察の捜査で少しずつ明らかになってきた。特に、心中したと推定される日は、イトゥクさんの父親が認知症を患う両親を長期療養型病院に連れていく前日だったことが分かり、周囲の人々の涙を誘っている。「3人は人気アイドルであるイトゥクさんの写真で部屋の壁全体を覆うほど息子、あるいは孫を誇りにしていたが、認知症という現実に押しつぶされてしまったようだ」と警察では話している。
■長年にわたる認知症介護と生活苦で悲劇
6日午前9時20分ごろ、ソウル市銅雀区新大方洞のマンションで、イトゥクさんの父親と祖父母が死亡しているのを父親のおいが発見、警察に通報した。ソウル・銅雀警察署は7日、「3人は5日午後11時ごろ死亡したものと推定される。イトゥクさんの父親が祖父母の首を締めて殺害した後、自ら首をつって自殺したことが分かった」と発表した。父親が残した遺書には「両親は私が連れていく」という内容が書かれていたという。
警察の調べによると、イトゥクさんの父親は1998年に妻と離婚、その後は一人で年老いた自身の父母と同居していた。父親は熱心に世話をしていたが、数年前から二人とも認知症になり、その介護で周囲の人々につらい心情を告白していたという。同じマンションの住人は「おじいさんは外出しても家の場所が分からなくなり、帰ってこられないことがたびたびあった。おばあさんはいつも車いすに乗ってよく病院に通っていた」と話す。イトゥクさんの祖母は昨年、肺がんの末期だと診断された。
遺族は同署に「イトゥクさんの父親は最近、個人事業が不振で生活が苦しく、うつ病になっていた」と説明した。父親が経営していた会社は最近、倒産寸前まで追い込まれるほど状況が悪化していたという。困窮した父親は自身の両親を長期療養型病院に入院させることを決断したが、入院前日に「無理心中」という最悪の選択をしたのだろうと遺族や警察は見ている。
事情を知る人々は「こんなことになるとは予測できなかった」としている。イトゥクさんの父親はいつも自身のブログに息子への愛情をつづっており、つい数日前も山歩きをした時の写真をアップロードしていた。中学校の同級生たちには「健康でうれしいことがたくさんある一年になりますように」という内容の新年のあいさつをメールで送っていたという。それにもかかわらず「私の遺体が発見されたら臓器を寄贈したい」と遺書を残し、両親と共に命を断った。
■長期間にわたる認知症介護は負担大
認知症が自殺や殺人の主な原因となったケースは、メディアで報道されているだけでも毎年10件以上に上る。ソウルでは昨年8月、80代の男が3年前に認知症を発症した妻の口にガムテープを貼って殺害後、自身も睡眠薬を飲んで自殺を図った。また、同年5月には慶尚北道青松郡で認知症の妻を4年間世話してきた80代の男が、妻を車に乗せて貯水池に飛び込み、心中した。
認知症患者を抱える家族が最悪の選択に至るのは「認知症介護の苦しみから抜け出すことはできない」という負担が大きく作用しているとため、と専門家は話す。ほとんどの人は初めの数年間、認知症患者を手厚く介護するが、それが長期化して状態も良くならないと現実に絶望するというのだ。専門家によると、イトゥクさんの父親も自身の父親に続き、母親まで認知症を発症したことでひどく落ち込んでいたと思われるとのことだ。
認知症に起因する自殺・殺人事件について調べてみると、ほとんどが介護施設への入所を考慮に入れず、自宅介護しているケースが多い。イトゥクさんの父親も、自身の母親の認知症が重度になる前だった昨年初めまでは近所の福祉施設に一緒に通い、介護の負担を軽減していたが、母親の状態が悪化して移動が難しくなったことから、自宅介護に切り替えていたことが分かった。認知症相談コールセンターのチェ・ギョンジャ相談チーム長は「認知症患者家族の多くが『介護のつらさで死にたいほどだ』と訴えながらも、『介護施設入所だけは避けたい』と言う。親を介護施設に入れることを親不孝だと考えては駄目」と強調した。
今回の事件のもう一つの原因とされるイトゥクさんの父親のうつ病も、認知症介護に関係があると推定されている。漢陽大学医学部のキム・ヒジン教授は「介護を一人あるいは二人で抱え込むと、自分自身の生活や人生を維持するのは事実上難しく、社会的に孤立してしまう。うつ病になったり、軽度のうつ病がひどくなることが多い」と注意を呼び掛けた。