「毎日のようにご飯を食べていても、たまには違うものを食べたりするではないか。それと同じで、音楽がいくら好きでも、飽きる瞬間が来る。愛憎のような感情が生まれるようだ」

 歌手活動23年目のシン・スンフンによる、スランプの告白だ。スランプのせいで自信をなくし、4年間音楽のない生活をした。シン・スンフンのプロジェクトアルバムがストップしてしまった理由だった。

 特別な克服法はなかった。恋愛がそうであるように、音楽によってできた傷も音楽で癒すしかなかった。シン・スンフンはもう一度歌うため、初心に帰った。10カ月近く、仕事場に出勤して帰るまで、音楽だけをひたすら聴いた。この10カ月は修練期間だったし、再び歌えるようになるための再充電の時間となった。シン・スンフンはなくしてしまった自信を取り戻し、4年ぶりに3部作プロジェクトアルバムの最後のシリーズ『GREAT WAVE』をリリースすることができた。

 最近、ソウル市竜山区梨泰院洞で、ニューアルバムをリリースしたシン・スンフンに会った。20年以上トップの座を守ってきた「バラードの皇帝」の貫録なのか、スランプを味わった人のようには見えなかった。シン・スンフンの言葉には気の利いたセンスがあったし、何より余裕に満ちあふれていた。シン・スンフンは変わった。

 シン・スンフンの変化は、アルバムにそのまま反映されている。リード曲「Sorry」をはじめ、新曲5曲はこれまでの音楽とは異なる、新しくさまざまなジャンルの曲で、実験性や大衆性を失わないよう努力した。音楽の外的な部分も変わった。シン・スンフンは自分の音楽以外に、後輩の育成にも関心を持つようになった。才能あるアマチュアを発掘する『偉大なる誕生』『ボイス・コリア』のような番組に出演したことがきっかけだった。何より、先輩として今日の音楽界の現実に責任を感じるようになった。大衆音楽がアイドル音楽に偏りすぎているという事実に、もどかしさを感じたというわけだ。

 「アイドル歌手を責めようというつもりはない。すごく素晴らしいし、何も言うことはない。K-POPブームが南米でも巻き起こっているのを見ると、一時的な現象ではないと思う。韓国のアイドル歌手たちが本当に見事だから好まれているのだ。ただ23年間も音楽業界にいると、今の大衆音楽があまりにも一方に偏りすぎていることに対するもどかしさはある。周りにそういう愚痴をこぼしていたのだが、よく考えてみたら、愚痴を打ち明けるのではなく、それこそまさに僕がすべき仕事だった」

 シン・スンフンは事務所でレッスン生にボーカル指導をしている。自信があった。現役歌手として20年以上トップの座を守ってきたし、番組を通じて直接レッスンもしてきた。アイドル歌手ではなく、ボーカルに重点を置いた歌手として、来年か再来年ごろ、アルバム制作までいかなくても、プロデュースした後輩歌手を披露する計画だ。

 シン・スンフンは音楽界の未来についても語った。今の音楽界はアイドル音楽が中心となっているが、近いうちにアイドル音楽と非アイドル音楽に2分化される時代が来るとし、そのときに備えて歌手、ミュージシャン、そしてアーティストの音楽が違わなければならない、と力説した。自分はアーティストになるため努力しているという。

 「メディアでは歌手、ミュージシャン、アーティストを混用しているが、ミュージシャンと呼ばれたいなら、音楽的才能が検証されなければならないし、アーティストと呼ばれたいなら、チョー・ヨンピル先輩以上にならなければならないと思う。チョー・ヨンピル先輩がアルバムをリリースし、1位を獲得したのを見て、かなり刺激を受けた。僕は中堅と呼ばれているのに、意気消沈したり、周りの環境のせいにしたりするのはいけないと思った」

 シン・スンフンは「ミュージシャンという枠を超えて、チョー・ヨンピル先輩のようにアーティストとして残りたい。歌が上手なシン・スンフンではなく、歌をよく知っているシン・スンフンになりたい」と最終目標を語った。

 このように音楽的信念がはっきりしているシン・スンフンも結婚、恋愛に関する話となると、弱気になる。結婚はいつごろするのかという質問に「タイミングを逃すと、難しいと思う」と後悔しているような口ぶりで冗談を飛ばし、笑いを誘った。しかし、今もいつ訪れるか分からない愛を待っている。

 シン・スンフンは1991年に「微笑みに映った君」でデビュー。「見えない愛」「I Believe」「君を愛しているから」「その後しばらくの間」「僕を泣かせないで」「はじめのその感じのように」「僕より少し高い所に君がいるだけ」「ロミオとジュリエット」など多くのヒット曲を生み出した。シン・スンフンは7枚のアルバムを100万枚以上売り上げ、アルバムセールスが通算1500万枚を記録するなど、韓国を代表するシンガーソングライターだ。

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