ドラマ出演に絡む不正な金品授受の疑いで検察の取り調べを受けた有名ドラマディレクターのキム・ジョンハクさん(62)が、京畿道城南市盆唐区の簡易宿泊施設で自殺を図り死亡した事件で、キムさんは検察の強圧的な捜査を批判する内容の遺書を残していたことが分かった。検察はキムさんが遺体で見つかった23日、「逮捕状は請求していたが、それを死亡と結び付けるのはやめてほしい。(キムさんは)事業失敗と生活苦で重度の鬱(うつ)に苦しんでいた」と説明していたため、遺書内容は波紋を広げそうだ。 
 本紙が24日に入手した遺書によると、キムさんはソウル中央地検の検事の実名を挙げ、悔しさを吐露した。警察は当初、「家族に申し訳ない」というのが遺書の主な内容だと説明したが、実際には4枚の遺書のうち3枚で自身をめぐる疑惑に言及していた。
 キムさんは捜査を担当していた検事に「ドラマを愛する全ての国民に謝罪しろ」と書いた。キムさんは周囲の人物に直接話し掛けるような文体を用い、きれいな書体で遺書を書いた。家族に対する愛情、先輩・後輩のディレクターに対する申し訳なさ、検察に対する怒り、弁護士への謝意が込められていた。
 キムさんは捜査を担当したソウル中央地検の検事(44)に、遺書の1枚を割いて言及した。キムさんは検事に対し「自分の功名心から…(キムさんを告訴した)レコード会社と結託したことに怒りを感じる。私が積み上げてきた全てが砂の城と化したのに、それでも正義を審判しているというのか。処罰されるべきはあなただ。事件をでっちあげ、それが悔しくて…」などと書いた。
 キムさんは昨年演出を担当したSBSテレビのドラマ『シンイ―信義―』の投資家から告訴され、検察の捜査を受けていたが、それとは別の事件で17日に逮捕状が請求されていた。キムさんは17日午前に検察に出頭し、取り調べを受け、翌日未明にレコード業者との対質尋問に臨み、午前3時半に帰宅した。周囲には「無理な捜査を受けた」と漏らしていた。当時検察の取り調べに同席した弁護士は「キムさんと共に働いていた人物は、キムさんが出演の見返りとして金品を受け取ったと主張したが、キムさんは否定していた。検察がその人物との対質尋問を認めなかったことに不満だったようだ」と話した。

 キムさんは帰宅した翌日に当たる19日午前に逮捕状の審査が予定されていたため、準備する時間がなかったとも話していた。ある知人はキムさんが「準備時間が足りなかったため、19日の逮捕状審査には応じず、2回目の審査が23日に決まったにもかかわらず、検察はそれを待つことなく、19日に捜査官をソウル市江南区内の親族宅に送り、圧力をかけてきた」と話していたとし、先端捜査部はキムさんに釈明の機会も与えず、強力犯を扱うように取り調べを行ったと批判した。死亡5日前にキムさんに会った出演者は、キムさんが「検察は故意に自分を狙って捜査しているようだ。とても悔しい。懸命にやってきたのにこんなことになった」と手を震わせながら話していたと証言した。
 キムさんは遺書で弁護士に対し「必ず真実を究明し、私が精魂込めた作品の名誉を回復してほしい」と書いた。
 4枚から成る遺書のうち、検察の捜査に言及していない部分は、家族宛てに書かれたものだった。淡々とした文章にも乱れが見られた。妻に対しては「すまない。数十年積み上げてきた全てが…。お前を愛している。これまで心労ばかりかけた。お前の全てを胸にして逝くから」と書いた。2人の娘にも「空からいつも見守っている。堂々と生きていけ」と呼び掛けた。
 キムさんはまた、「後輩のディレクターが真剣にやっているところに、私が迷惑を掛けるのではないか。ディレクターたちに悪質で汚い矢が向けられないことを祈る」という言葉で遺書を締めくくった。弔問に訪れた出演者、キム・ヨンオクさん(76)は「キム・ジョンハクさんは食べるものも食べずに働いてきた人物だ。とてもクリーンな人物だけに、かえって耐えられなかったのかもしれない」と語った。

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