慶尚北道清道郡にあるハンジェ村は韓国の代表的なセリの産地で、全国の生産量の10%がここで生産されている。春の到来と共に、この村にはセリを味わうために全国から多くの人々が訪れる。宅配注文は配送まで1週間以上かかるほどの人気だ。冬の間なくしていた食欲をよみがえらせ、春を伝えるというハンジェ産のセリは、いったいどんな味なのだろうか。

畑で育つハンジェ産のセリ。

 清道の南山と華岳山の稜線の南東側に位置するハンジェ村。広い畑にぎっしりと並ぶセリのビニールハウスが、ハンジェ村に到着したことを知らせてくれる。ビニールハウスの間からは緑色のセリがのぞき、ようやく春が来たことを告げているかのようだ。

 セリは韓国語で「ミナリ」だが、実はミナリの「ミ」は水を意味し、「ナリ」は草を意味する。つまり直訳すれば「水で育つ草」となるが、ハンジェ産のセリは畑で栽培される。一般的なセリは、ヒルの1匹や2匹は当たり前のようについていて汚れた水でも立派に育つが、そうしたセリとは異なるのだ。

 ハンジェ産のセリは、田んぼのあぜ道などに生えている普通のセリに比べ、複雑な過程を経て育つ。夜に水を与え、日中は水を抜くという作業を50日間繰り返す。2回、3回と刈るのではなく、刈るのは1度限りだからこそ、「ハンジェ」というブランドが完成する。

ハンジェ村のビニールハウスではセリがびっしりと栽培されている。

 「都会の人々は、栄養剤をまくだけでも、農薬を散布していると思い込んで仰天するが、ここでは農薬のようなものは一切使っていない。種一つから懸命に育てて販売しているのだから、モノが悪いわけがない」。セリを栽培するソ・サンウンさん(39)の言葉には、ハンジェ産のセリに対するプライドが感じられた。

 環境に優しい農法で栽培しているため、1本ぐらいならさっと土を落として食べてみても構わない。柔らかい茎を1本口に入れると、コリコリとした食感と中まで詰まった茎のサクサク感が、かむ楽しみを与えてくれる。初めは苦いような香りがするが、後味は甘い。

 昔から、自然の便りが最初に届く初物のセリは、王にささげられるといわれていたが、王にだけ味わわせておくのはもったいない。きょうだけは王が乗り移ったことにして「セリサムギョプサル(セリを添えた豚バラ肉の焼き肉)」を食べてみよう。実際には、お金を払って食べる客は『王』ではないか。

ハンジェ産のセリと一緒に食べるサムギョプサル。

 清道で最も人気のあるという「セリサムギョプサル」は、特別な調理方法があるわけではない。サムギョプサルとセリを一緒に焼くだけだ。思わず「これだけ?」と言ってしまうが、セリによる「差」は大きい。

 肉を焼くときにセリは肉の油っこさを消してくれる上、セリがあることで栄養的なバランスもよくなる。また、セリはコレステロールの排出を促し、血液の浄化を助けるほか、肝機能を向上させる効果もあり、アルコールにも強くなる。

 また、セリは何といっても解毒作用と重金属の浄化作用に優れている。フグのスープにセリを入れるとフグの毒が浄化されるように、セリは解毒や重金属の排出に効果がある。

セリのビビンバは香り高い逸品だ。

 このように、ヘルシーな野菜として注目を集めているセリとサムギョプサルを一緒に食べると、焼き肉なのに鍋料理を食べているような感じがする。よく焼いたサムギョプサルにセリを巻いて食べると、ほんのり甘い肉汁とセリから出た汁が口いっぱいに広がる。

 サムギョプサルの後は、冷麺やポックンパプ(韓国風チャーハン)よりも、セリのビビンバがお勧めだ。調味料であえたセリと細かいのりをご飯にかけて混ぜたビビンバは、セリの味と香りをそのまま楽しむことができる。

 香り高いセリのビビンバは、サムギョプサルの油っこさを中和してくれるだけでなく、サクサクした食感でさっぱりした気分になれる。かめばかむほど強くなるセリの香りは、器が空になってもずっと残るため、ゆっくり堪能したい。

「セリエキス」と「セリのチヂミ」は相性抜群だ。

 このほか、ハンジェ産のセリを使った「セリエキス」や「セリのチヂミ」も絶品だ。滋養強壮によいセリエキスは、好みに合わせ水やアルコールで割って飲む。またセリのチヂミは酒のおつまみに最適だ。セリの香り漂うチヂミと甘いセリエキスを、焼酒(韓国式焼酎)を飲みながら味わうと「ああ、春だなあ!」と思えてくる。

 どんな食べ方をしても「春」を感じられるハンジェ産のセリ。旬は4月、つまり今だ。冬の間に体にたまった毒素や老廃物をいかにきれいに排出できるかによって、残り1年間のコンディションが左右されるため、慶北・清道に行って、春の栄養食に最もふさわしいセリを味わってみよう。

清道では今月17日から闘牛祭りが開催される。

 また、清道では「清道闘牛祭り」の準備が佳境に入っている。毎年50万人以上の観光客が訪れるこの行事は、重量別の闘牛大会のほか、バンド公演、フェースペインティング、牛の版画作りなど、老若男女誰もが楽しめるプログラムが用意されている。

 闘牛祭りは、単なる牛たちの力比べだと思ったら大間違いだ。直径31メートルの土俵の上では、角掛け、横掛けなどさまざまな闘牛の技が繰り出され、観客は手に汗を握って観戦する。どちらの牛が勝つかを予想する賭け試合は、100-10万ウォン(約9-8800円)の範囲で賭けることができ、見る楽しみも倍増する。

 清道の闘牛は毎週末に開催され、今回の「清道闘牛祭り」の期間に当たる5月17-21日には平日も闘牛を観戦できる。

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