韓国の東海(日本海)、西海(黄海)、南海(東シナ海)の各海岸には、およそ300カ所の海水浴場がある。だが、このうち有名なのは海雲台、広安里、鏡浦台、大川、乙旺里など、片手で数えられる程度しかない。そのせいか、夏休みになると有名な海水浴場はまさに芋洗い状態で、足の踏み場もないほど多くの観光客でにぎわう。張り切って計画した夏休みの旅行が、後悔交じりのため息に変わる瞬間だ。

 そこで、今年の夏休みは比較的静かな海を訪れてみてはいかがだろうか。特に韓国の西海岸には海水浴場を中心に、見事な景観を誇る海岸がある。閑散とした中にもゆとりのある海辺…そんな場所を求めて忠清南道泰安を訪れた。

 泰安は一言で表現すると「奇跡の旅行地」だ。泰安の海岸と海は、2007年12月7月に発生した原油流出事故の影響で、かつての景観を取り戻すのは不可能と思われたが、いつ事故が発生したのかと思うくらい元通りの美しい海を取り戻し、観光客を出迎えている。

 まず、泰安郡所遠面蟻項里にある「テベキル」という散策路に向かった。テベキルはかつて軍事区域に指定され立ち入りが制限されていたが、最近になって自然観察用の散策路が造成され、一般に開放された。

 テベキルの入り口に当たる蟻項の海岸に車を止めた。薄霧の立ち込める海の上に青い空が広がり、思わず「うわぁ」とため息が漏れた。

 海を見ながら砂浜を歩くと、林道が見えてくる。ここから防災路が始まり、クルンポ、シンノルの海岸とケモク村が一望できる。

 途中には「李太白フォトゾーン」がある。テベには、中国の詩聖、李太白(李白)にまつわる話が伝わっている。遠い昔、李太白が朝鮮にやって来た際、見事な絶景に見とれ、途中で岩に筆で詩をしたためた。「師匠はどの寺に行かれたのか、弟子たちが景勝地を訪れると、3月のツツジが朗らかに笑い、春の風は雲山いっぱいに吹いていた…」。以来、この地はテベと呼ばれるようになった。

 原油流出事故を忘れないために、災害復旧作業が行われた主な場所やテベ展望台には、当時の様子を撮影した写真が展示されている。テベ展望台はテベキルの中間地点にあり、眼下に広がる西海と大小の島々を一望することができる。

 テベ展望台から森の中を進むと、アンテベ、シンノルの海岸にたどり着く。これらの海岸でしばし靴を脱ぎ、さざ波の立つ青い海に足を浸しながら歩くと、冷たい海水で足の疲れが和らいでいく。

 次に向かった先は、白砂に覆われた全長5キロの長い砂浜「新斗里海水浴場」だ。ここは海岸に沿ってリゾート施設が立ち並び、大学生や社会人の団体客が多い。

 海岸は柔らかな砂浜で、海沿いの松林が日陰を作り、暑さをしのげる開放的な空間になっている。

 新斗里海水浴場の北側の一部にある海岸砂丘は、天然記念物第431号に指定されている。海岸砂丘は海流によって流されてきた砂が、風の作用で低い丘陵状に堆積したものだ。

 この場所は、独特の地形と植物が保全されている上、砂丘が風に吹かれて美しい砂漠のような風景を演出している。また、ハマナスの群落、鳥類の産卵場所などもあり、生態学的に価値が高く、多くの小中学生が校外学習に訪れる。

 そして最後に向かったのは、映画『バンジージャンプする』、ドラマ『竜の涙』『女人天下』のロケ地としても有名な「カルミ海水浴場」。
 この海岸は、うっそうと生い茂った松林に囲まれ、奇怪な形の石が多く、まるで山奥にいるような感じだ。海岸に隣接した松林ではキャンプも楽しめる。また、ほかの海水浴場に比べてこぢんまりしており、海も遠浅のため、家族連れにはぴったりだ。

 泰安郡には、韓国で最多となる32カ所の海水浴場がある。海開きが行われた7月14日から8月19日までの期間、同郡は観光客のためコッチ海水浴場、万里浦海水浴場など5カ所に夏季限定の出張所と観光案内所を設置している。

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