感性豊かな演技の達人、女優イ・ナヨンが「女刑事」になって戻ってきた。狼犬による連続殺人事件。これを追い掛ける2人の刑事。映画『ハウリング』のユ・ハ監督と俳優ソン・ガンホは最高のパートナーだった。

 「『ハウリング』は単純な刑事物ではありません。オオカミでも犬でもないオオカミ犬を通して、社会から疎外された人たちを描いた作品です」

 イ・ナヨンの目が輝く。今日は女優イ・ナヨンの「今」をキーワードでまとめてみた。

■主演映画『ハウリング』

 「捨てたり、満たしたり…」

 イ・ナヨンは映画『ハウリング』と前作の差についてこのように説明した。ユ・ハ監督にソン・ガンホ、女刑事のキャラクターにアクション。思わず嘆声がこぼれる。

 執拗(しつよう)なことで有名なユ・ハ監督は、イ・ナヨンを「おっとりしている」と表現する。転んでも、けがをしても、1度もしかめっ面をしたり、つらそうな素振りを見せたことがないからだ。イ・ナヨンに「怒ったことないの?」と聞いたこともあるという。

 イ・ナヨンは「それだけおなかがすいていたのかもしれない」と笑った。 

 「以前は自分が楽しめる作品で自分の中身を見せていたとすれば、今回は作品を通して自分を満たすことに重点を置いたといえるでしょう。わたし自身を丸ごと作品の中に投じて、すべてを監督に任せました」

■アクション

 イ・ナヨンは昨年1年間を丸ごと『ハウリング』のために使った。1月から3月までの3カ月間は作品の準備、9月までは撮影、その後は録音などのまとめ作業をしているうちに1年が終わったのだという。

 「女性刑事に直接会って取材をしてみたり、オートバイの免許を取ったり、わたしなりに徹底して準備をしました。でも、その過程で大小の事故が続いてしまいました。撮影の途中、オートバイの事故が起きた時は、自分の体が宙にポーンと飛んでいくのを感じて、『このまま死ぬのかな』と思ったこともありました。救急病院に2度もお世話になりました」

 監督が口にした「おっとり」という言葉はこういうことなのか。先輩のイ・ソンミンに跡が残るほど顔をたたかれても「幸い1度でOKが出た。本気で殴ってくれて感謝した」と話す。むこうずねに真っ青なあざが残ってしまったときには、特殊メイクの人たちに「参考にして」と写真まで撮って渡したとか。

 女優はよく「映画の華」と呼ばれる。スリラーなどのジャンルではなおさらだ。今回の作品でも、イ・ナヨンは確かに華だったが、よく見かけるような「華」ではない。独特で濃い香りの漂う「華」だった。

■ドラマ『紳士の風格』への出演を断った理由は

 いつの間にかイ・ナヨンも34歳。恋愛はしないのかと聞いてみた。イ・ナヨンは大したことではないというように「恋愛をしたいとも思わないし、している時間的余裕もない」ときっぱり。結婚もまだ遠い話のように思えるとのことだ。

 最近、イ・ナヨンの頭の中には仕事のことしかない。SBSの新ドラマ『紳士の風格』への出演を断った理由も、これと関係がある。ドラマの放送時期が3月から5月に延期になったことにより、「休みなく活動したい」という新年の計画が実現できなくなってしまうからだった。

 ドラマ『シークレット・ガーデン』でシンドロームまで巻き起こしたシン・ウチョル・プロデューサーと脚本家キム・ウンスクの新作であることに加え、大スターのチャン・ドンゴンの出演が決まったにもかかわらず、イ・ナヨンの気持ちを変えることはできなかった。

 「制作会社側に出演できないかもしれないと伝えたのは、かなり以前のことです。縁がなかったのでしょう。特に心残りはありません。縁がなかった作品には未練を持たない方なので」

■命懸けの撮影、あわや大事故に

 「映画『悲夢』を撮影している最中、ヒロインを演じていたイ・ナヨンが命を落としかけるという事故があった。かなづちで頭をたたかれたようなショックを受け、それ以上撮影を続けることができなかった」

 これは、昨年、世間をにぎわせたキム・ギドク監督のコメントだ。キム監督は2008年、映画『悲夢』の後、空白期を置き、昨年、自問自答形式の1人映画『アリラン』で、カンヌ国際映画祭の「注目に値する視線」賞を受賞し、華やかに復帰した。さらに、これによりイ・ナヨンの名前も話題となった。

 事故はイ・ナヨンが演じた「ラン」が精神病院で首をつって自殺を図るシーンで起こった。イ・ナヨンが首をつった状態で宙ぶらりんになるという事故が発生し、驚いたキム監督は側にあったはしごにのぼってイ・ナヨンを下ろし、首に巻かれていた縄を解いたという。

 「絶対に監督の責任ではありません。リアルに演じたいというわたしの希望のせいであんなことに…。2008年の映画が今になって話題になるなんて…。あの時の事故がそれほど監督の心に傷をつけていたなんて夢にも思いませんでした。なんだか申し訳ない気持ちで一杯です。わたしはどうしていつも作品に命を懸けてしまうんでしょうか?」

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