スターインタビュー
キム・ミョンミンが自分を痛めつけるワケ
「死点」という運動生理学用語がある。激しい運動中に酸素の需給バランスが最悪の状況になることで、文字通り今にも死んでしまうかのような苦痛の瞬間をいう。英語では「デッド・ポイント」だ。しかし、その段階を過ぎれば苦痛は消え、快感の絶頂に達する。
俳優キム・ミョンミンはその瞬間を「麻薬のようだ」と表現した。一度その味を知ってしまうと中毒性が強く、なかなか抜け出せないという意味だ。キム・ミョンミンにとって、演技は走ることと同じだという。俳優として生き、数知れない「死点」を経験したというキム・ミョンミンは「ある瞬間から足を止めることがなくなった」と語った。
演じる役そのものがマラソンランナーという新作映画『ペースメーカー』(キム・ダルジュン監督)では、自分自身をこれまでにも増して痛めつけた。ほかの選手のために30キロまでしか走らないペースメーカーのチュ・マンホは、たった一人の弟が小さかったころはその面倒を見るため走り、弟が大人になり成功してからは「お荷物」にならないよう走っている。自分自身がない、中途半端なマラソンランナー。ずっとほかの人の背中を見て走るチュ・マンホの姿は壮絶で痛ましい。
今回の作品でも、そこにキム・ミョンミンはいなかった。乱れた髪に黒ずんだ肌、突き出した口元など、顔立ちからしてチュ・マンホそのものだ。マラソンの壮絶さを表現しようと、不格好な人工歯まで入れた。「やっとの思いで走る馬の痛々しい口の形から思いついた」と語ったが、やはり「メソッド演技法の第一人者」と言われるにふさわしい。しかし、本人は過度に褒められることに警戒感を示した。
「『メソッド演技法の第一人者』『演技派』といった修飾語は、実はとても苦手なんです。超写実主義的な演技を追求しているのは確かですが、それは俳優の宿命だと思います。映画『私の愛、私のそばに』(2009年)以降、体を酷使しすぎているのでは、とよく言われますが、役で演じる人物に命を吹き込み、立体化するのは俳優の権限であると同時に、責任だと思うのです。しなければならないからするんですよ」
大将軍の李舜臣(イ・スンシン)、天才外科医チャン・ジュンヒョク、カリスマ指揮者のカン・マエ、筋委縮性側索硬化症(ALS)患者のペク・ジョンウ、無鉄砲な朝鮮時代の名探偵など、不滅の登場人物たちはそうした心構えから生まれた。『ペースメーカー』のチュ・マンホも同じだ。キム・ミョンミンは「チュ・マンホの姿に自分自身を見た」と話す。
「僕も俳優として完走できないまま、30キロ地点で断念しようとしたときがありました。『韓国映画界の大災難』と呼ばれた映画『リザレクション』(02年)以降、3年間にわたり資金不足が続き、準備中だった作品が次々と白紙化されたんです。『スタントマン』(同)という作品は85%撮影が終わっていましたが、あとの15%が撮れなくて公開できませんでした。その上、撮影中にバイクで脚をひかれ、今でも激しい運動はできません。すべて投げ出し、ニュージーランドに移住しようとしていたとき、ドラマ『不滅の李舜臣』(04年)に出会ったんです」
キム・ミョンミンは、自分自身がそうだったように「僕たちはみな、誰かのペースメーカーになることができます」と話す。「ほとんどの人が、選ばれたり、成功した2%の勝者のために生きていますが、それでもいつかは第一人者になれるんです」。これこそ、キム・ミョンミンが「ペースメーカー」チュ・マンホを演じることで伝えたいメッセージなのだ。