「ロマンチック・コメディーの女王」。キム・ハヌルを形容する言葉だ。デビューから15年、キム・ハヌルはテレビドラマでは「涙の女王」、映画では「ロマンチック・コメディーの女王」として君臨してきた。だが、女王として君臨してはきたものの、まかり間違えばロマンチック・コメディーの女王のまま使い古されてしまう可能性もある。

 キム・ハヌルは今年の大鐘賞で、デビューしてから初めて主演女優賞を受賞した。視覚障害者のヒロインを演じた『ブラインド』での演技が認められたのだ。ロマンチック・コメディーだったら受賞は難しかったかもしれない。キム・ハヌルにとって、新たな選択肢が開かれたかのように思われた。

 ところが、キム・ハヌルはまたロマンチック・コメディー作品に戻ってきた。「女王の帰還」というわけだが、なぜほかのジャンルの映画に出ないのかという気もした。それでもキム・ハヌルは堂々と「私は自分がしたい仕事をするのが一番大切」と語った。

 『きみはペット』は日本の同名漫画の映画化だ。仕事のキャリアはあるが孤独な独身女性がある日、家で年下のイケメンをペットとして飼うことになるというストーリー。キム・ハヌルは歌い踊り愛嬌(あいきょう)を振りまくチャン・グンソクを「ペット」として引き連れ帰ってきた。

-遅ればせながら初の主演女優賞受賞、おめでとうございます。演技派なのに賞に恵まれなかったのは、主にロマンチック・コメディー作品に出演してきたからではと思うのですが。

 「映画に出るとき、賞を中心に考えたことは一度もありません。作品に出るときはいつも目標を設定しますが、賞を目標にはしません。ロマンチック・コメディーにばかり出ているから賞がもらえなかったわけではありません。どの作品もすべて台本が魅力的でした。『ブラインド』もそういう作品でした。それなのに賞をいただき、とてもありがたくて、どうすればいいか分からないほどでした」

-『ブラインド』出演後、またロマンチック・コメディー作品に出たのは意外でした。

 「皆さんそう思うようです。ファンもそれを心配していました。しかし、わたしはそういう風にはしてきませんでした。15年間『今の流れがこうだからこうしよう』なんて考えていたら、今のわたしもないし、楽しみもなかったでしょう」

-「女王の帰還」?

 「拍手してもらえる間に(コメディーから)手を引くのでは、と皆さん思っていたようです。でも、私は手を引こうと考えたことはありません。『きみはペット』の台本を見たとき、とても強くこの物語のヒロインを演じてみたいという気持ちになりました。わたしに対して皆さんが持っている考えはもちろん満足させなければなりませんし、大切なことです。でも、一番大切なのは、その前に自分が満足しなければならないということです」

-『きみはペット』はとてもスイートな感じがしましたが、どうでしたか?

 「わたしは決して甘いと感じませんでした。チャン・グンソクさんの演技や努力は素晴しかったし、ファンタジー的な部分もありますから。でも、残念なところもありました。ロマンチックなラブストーリーだと思って演技をしていたら、ロマンチック・コメディーになっていました。そうだと分かっていたら、そのときからロマンチック・コメディー寄りの演技をしていたのに…と思いました」

-チャン・グンソクさんは実にユニークですね。

 「チャン・グンソクさんはキュートなところも男らしいところも両方ありますね。とてもユニークですよ。最初はよそよそしかったです。すごく違いすぎてよそよそしかったですね。でも、日本での公演に行って、あのエネルギーはどこから来るんだろう、と思いました。なぜ人気があるのか分かりました。ものすごく頑張っています。わたしがあの年齢のとき、チャン・グンソクさんのようにはできませんでした」

-チャン・グンソクを引き立たせたというか、気を配っているように演じていたのが印象的です。

 「わたしが引き立って見えるシーン、逆に相手が引き立って見えるシーンがどれなのか分かっています。相手が引き立って見えなければならないときは拍手をしてあげなければ。そうしなければ、一緒に何かを得ることはできないと思います。チャン・グンソクさんは自由にできる部分が多かったです。これは愛し、愛される物語ですから」

-チャン・グンソクさんのような年下の男性はどうですか。

 「年下の男性を異性として見たことは一度もありません。付き合ったこともないです」

-30代の女性として、今回の役に共感できると言っていましたが。

 「初めはこんなことあり得るのかなと思いました。ところが、撮影してみると、女としてこんなことが本当にあるならうらやましいと思って。彼氏がいるとどうしても疲れることもあります。その点、このヒロインは本当に楽な気持ちで一緒にいられるから、どんなにいいだろうって。もちろん、現実的には難しいんでしょうね。ファンタジーだから」

-映画のように人生はつらいと思った時期がありましたか?

 「20代から30代になるときは本当に最悪でした。仕事・恋愛・人間関係とすべてがメチャクチャでした。わたしだけ一人ぽつんといるような感じ。その時期を経た今は、あまりつらいことはありません」

-キム・ハヌルは単なるスターではなく、ヒストリーを持つ女優になりつつあります。今後は作品の中でもう少し変化を模索してみようという気持ちはありませんか?

 「ゆっくりやっていきたいですね。このようにステキな映画を、私はいつまでできるかしら。今でなければ難しいのでは。今は自分にプラスな状況がやって来たときどうすればうまくできるのか、少しずつ分かってきた気がします。ひたすら感謝するばかりです」

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