普通の住宅街なのにカメラを持つ人々が目に付く。彼らは古本屋や町のあちこちに描かれている壁画に向かってカメラを構え、せわしなくシャッターを切り続けている。『オズの魔法使い』に出てきそうな大きなブリキのロボット、マッコリ(韓国の濁酒)製造所にあるやかんのようなオブジェにも、彼らは足を止める。

 ここは、仁川市内でも写真撮影の人気スポットとして知られている場所。東仁川駅と桃源駅の間にある「ペダリ」通りだ。


 ペダリとは、「ぺ」=船、「ダリ」=橋という意味。1950年代までは海水がここまで来ていて、船を着ける橋があったことから付いた名前だ。今となっては当時の痕跡はないが、70-80年代の面影を残す古本屋やアーティストたちが描いた壁画がペダリの新たな顔になっている。

 ここで撮影した写真はユーモラスで、さまざまな演出が可能だ。ペダリ通りから少し入ると昌栄小学校があるが、ここの塀には町を描いた絵がある。町の入り口に座るお年寄り、モノクロで描かれた昔のペダリといった懐かしい風景は、路地を1つのアート作品にしている。


 古くて静かな町になぜこのような壁画が登場したのか気になった。ペダリでカフェを経営している人に聞くと、「産業化と開発に押され、ペダリが消滅の危機にひんしているという話を聞いたアーティストたちが、町のあちこちに壁画を描き始めたことから生まれました。結局開発は中止され、町には昔の仁川の姿をとどめた壁画や古本屋街が残ることになったんです」と教えてくれた。

 昌栄小学校の向かい側には公営駐車場がある。何気なく駐車場を通りかかると、ひざほどの高さの低い塀を見つけた。塀には人の足を少しデフォルメして描いた絵がある。


 さらに町を少し歩くと、古い建物が目に入った。赤レンガ造りの建物の前には、うなだれたような銀色のロボットが気の毒そうに立っていた。ここは80年間にわたりマッコリ(韓国の濁酒)が作られていた製造所をギャラリーにリニューアルした「スペース・ビーム」だ。


 そして、古本屋が集まっている通りに行った。ペダリを語る時、古本屋街は外せないスポットだ。ここは、韓国戦争(朝鮮戦争)後に廃虚となったペダリに、リヤカーの本屋が集まったことから生まれた場所だ。かつては50軒以上あったが、今では6軒を残すばかりになった。それでも、ここを忘れられずに訪れる人でにぎわっていた。

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