プデチゲの「プデ」は軍の部隊という意味。名前だけ見れば、部隊で兵士たちが食べるチゲ(鍋料理)だと思いがちだが、実は、このチゲは部隊ではなく一般庶民の空腹を満たしてくれた料理だった。韓国人がプデチゲを食べ始めたのは、北朝鮮と戦った韓国戦争(朝鮮戦争)が休戦した直後の1960年代。在韓米軍部隊のハムや肉がプデチゲの材料になるまでの流れをひもとく「プデチゲ物語」をどうぞ。

韓国戦争が作った料理・プデチゲ

 プデチゲは1950年6月25日に始まり、3年間にわたり韓国人に決して消えない傷を残した韓国戦争の休戦後に生まれた料理で、60年の歴史を持つ。今はソウル市内のあちこちに数多くのプデチゲ屋ができ、老若男女を問わず誰もが好きな韓国料理としておなじみになったが、休戦後初めてプデチゲが食べられた時と今とでは、料理が持つ意味が全く違う。
 3年間続いた戦争で、庶民は日増しに生活に窮していった。部隊が駐屯していた京畿道議政府市の人々は空腹を満たすため、在韓米軍部隊から横流しされたハムや肉などをいため、「プデいため」として売っていた。それが後にスープを入れて煮た「プデチゲ」になったのだ。今では、在韓米軍から材料を調達する必要はなく、アメリカやオーストラリアから輸入した材料で作るようになった。
プデチゲは、韓国が貧しかった時代に空腹を満たしてくれた味として人々の記憶に残りながらも、いつのまにか堂々たる韓国料理として定着した。

プデチゲの味の秘密

 材料がひと目で分かるほど平べったい鍋に、数種類のハムやソーセージ、野菜、キムチなどを入れ、グツグツと煮るプデチゲ。スープが沸騰し、いろいろな材料から味が出る。中でもハムから出るコクや脂がいい味を出す役割をし、漬かりすぎて少し酸っぱくなったキムチがハムの脂っこさをさっぱり味に変えつつ、スープに辛さとうまみをつける。一見、材料をそろえるのは簡単そうだが、それぞれの家で濃さが違うスープや調味料をどのような割合で合わせ、塩加減をどうするのかが味を左右する。代表的な人気プデチゲ屋の味を比べてみると、「議政府プデチゲ」は辛めでスープはさっぱり系と最も一般的な味。梨泰院にある「パダ食堂」はチーズとハムがたっぷり入り、少々脂っぽくコクがある。豆がたくさん入った「クムソン食堂」はスープのとろみが特徴だ。
 アメリカに住む韓国系の人々も、同じ材料を入れプデチゲを作るが、同じ味にならない。その理由はキムチの違いだ。それは、全く同じ方法でキムチを漬けても、気候や風土が違うから。四季の移り変わりがはっきりしている韓国で1年間熟成させたキムチは味に深みがあり、プデチゲに欠かせない食材だ。
 プデチゲのもう一つの特徴は、砂糖を入れなくても甘く、ベースの材料以外には塩を足す必要がないことだ。これは、最初にハムを作る時、味を生かし、腐敗を防止するために塩と砂糖を加えているため。だから、ハムやキムチなどの基本的な材料さえあれば、家庭でも手軽に作れる。お好みでチーズや豆類を加えてもいいので、とても簡単。そこにニンニクや春菊なども入れれば、生活習慣病予防にもいいと言われている。

韓国らしい料理・プデチゲ

 プデチゲの韓国料理らしさは、スープのおかげだ。ハムやソーセージを使う料理は世界各地にあるが、スープで煮るチゲと言えば、韓国のプデチゲだけだ。ピリッと辛くアツアツのチゲが好きな韓国人の好みが反映されていると言えるだろう。ここ数年、多国籍料理ブームが続き、韓国式の料理方法と西洋風の材料で一味違うメニューが増えている。だが、こうした高級レストランの多国籍料理がブームになるずっと前から、韓国人に愛されてきた代表的な多国籍料理こそ、韓国のチゲにアメリカの食材を入れたプデチゲなのだ。

プデチゲの元祖・議政府と松炭

 韓国戦争が休戦した直後、ソウルと接する京畿道の各部隊には、米軍が駐屯し始めた。その部隊を中心に、プデチゲを売る店が次々と登場したが、その代表的な場所が京畿道内の議政府と松炭だ。
 議政府プデチゲ通りは、1960年代に誕生したプデチゲ屋が一つ二つと増え、25軒ほどの店が所狭しと立ち並び、現在の通りになったもの。当時は「プデチゲ」という言葉が使えず、「名物チゲ」と呼んでいたそうだ。その後、プデチゲが全国に広がり、「議政府がプデチゲの元祖であることを知ってもらわなければ」という声が上がったことから、98年11月1日に「議政府名物チゲ通り」と正式な名称を付け、現在まで保存されている。2006年からは毎年秋に「議政府プデチゲ祭り」を開催、農楽踊りをはじめ、プデチゲ料理コンテストや無料試食会など、市民と観光客を一つにするイベントが行われている。楊州市の「チャングム・テーマパーク」も近く、日本や台湾などから来た観光客が議政府プデチゲ通りに寄り、韓国の食文化を体験するチャンスが増えている。議政府プデチゲ通りは1号線議政府駅から東豆川方面へ進み、警察署の交差点で右に曲がると、300メートル先の所にある。

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