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栄養満点、味も満点干しダラスープ(上)
最近、「肌を美しくする」といううわさが広まり、日本でも人気を集めている干しダラスープ。韓国の男性であれば、月に1回は食べるものであり、また主婦であれば誰もがオリジナルの干しダラスープのレシピを持っているといっても過言ではない。韓国ではそれだけメジャーな、なおかつ身近な食べ物なのだ。そんな干しダラスープにまつわるエピソードを紹介しよう。
◉ 北魚(干しダラ)とは
干しダラは韓国語で「北魚(プゴ)」という。冬に多く獲れるスケトウダラの身を干して貯蔵し、長期間にわたって食べられるようにするという手法は、ほかの国では類例を見ない独特なものだ。「北魚」という名称の由来については諸説があるが、その一つは、約600年前の高麗時代、江原道の人々が「北の海で獲れた魚」という意味で名付けたというものだ。当時、江原道の沿岸ではスケトウダラが多く獲れたが、「名前のない魚は食べてはならない」という迷信があったため、食べられなかったという。だが、後に「明太(ミョンテ)」という名前が付いてからは、多くの人々が好んで食べるようになったという。
◉ 明太の驚くべき変身
韓国では、スケトウダラほどさまざまな呼び名がある魚はほかにない。獲れたてのスケトウダラは「生太(センテ)」、凍らせたものは「凍太(トンテ)」、干したものは「北魚」または「乾太(コンテ)」という。このほかにも、ひと冬の間に何度も凍らせたり戻したりして、黄色く変色した「黄太(ファンテ)」、内臓やえらを取り除き、網に吊るして半分乾燥させた「コダリ」、乾燥させて白く変色した「白太(ペクテ)」、黒く変色した「黒太(フクテ)」、カチカチになるまで乾燥させた「カンテ」、幼魚を乾燥させた「ノガリ」など、その形状や加工方法によって、さまざまな呼び名がある。それだけでなく、漁獲の方法によっても呼び名が違ってくる。網で獲ったものは「網太(マンテ)」、釣ったものは「釣太(チョテ)」という。
◉「北魚のいとこ」黄太
姿かたちはよく似ているものの、加工方法は北魚と完全に違うのが「黄太」だ。獲れたてのスケトウダラを干し場で乾燥させるという点は同じだが、冬の寒い日、夜の間にカチカチに凍ったスケトウダラは、昼間に気温が上がると柔らかくなる。この作業を20回以上繰り返したものを「黄太」と呼ぶ。その名の通り黄色く変色し、肉は柔らかいが、弾力性がある。そして、価格は北魚よりも高い。
◉ 健康食品・干しダラスープ
朝鮮王朝の昔から、韓国で代々受け継がれてきた医学書『東医宝鑑』(許浚〈ホ・ジュン〉著)には、スケトウダラについて「体内にたまった毒素を分解し、酒の飲みすぎによって疲れた肝臓を守ってくれる。疲労回復や血圧の調節に大きな効果がある食材だ」と書かれている。実際、スケトウダラの身を干した「北魚」は、獲れたてのものに比べ、タンパク質やアミノ酸の含有量が5倍以上になり、二日酔いの解消やアルコールの分解、老廃物の除去に効果があるという。このためか、干しダラスープは韓国で、二日酔いに効く食べ物として人気があり、飲酒した次の日には最初に口にするほどだ。だが、アルコールの分解だけでなく、健康食品・美容食品として、子どもからお年寄りまで幅広い年代の人々に親しまれており、味を楽しむとの同時に、人々の健康を守ってくれている。
良質の干しダラの選び方
表面は赤い光を帯び、身は黄色がかっていて、水に浸してもすぐに軟らかくならないものが、良質の干しダラだ。自然乾燥させた、淡白で肉質が柔らかく、それでいて生臭さがないものが良い。1匹丸ごと干したものを購入するときは、楕円形で丸々とした、肉質が柔らかいものを選ぶとよい。
栄養満点の干しダラスープのレシピ、専門家に学ぼう
料理指導 ヤン・ヒャンジャ(世界飲食文化研究院理事長)
思ったよりも簡単に作れる干しダラスープ。インスタントのものも美味しく、また手軽に調味料を加えて煮込んでもよいが、ここでは天然ものの材料を使い、韓国の家庭で作られる干しダラスープを作ってみることをおすすめしたい。
-材料
干しダラ60グラム、水4カップ、大根40グラム、刻みニンニク大さじ2分の1、ゴマ油大さじ1杯、ネギ2分の1本、卵1個、塩小さじ2分の1、たまりしょう油大さじ1杯、昆布2枚(好みに合わせ、コショウやトウガラシ粉を少々)
-作り方
❶ 干しダラは1回水洗いし、適当な大きさに切る。
❷ 大根は千切りに、ネギは斜め切りにする。
❸ 昆布は水4カップに浸しておく。
❹ フライパンに切った干しダラを入れ、ゴマ油で炒める。
❺ たまりしょう油大さじ1杯を、焦がさないよう注意しながら混ぜて炒め、3で用意した昆布のだし汁を混ぜ、弱火で煮込む。
❻ 大根がよく煮え、干しダラが柔らかくなったら、刻みニンニクと塩を入れ味付けする。
❼ 卵を溶いて鍋に入れ、最後にネギを入れて強火で煮た後、火を止め器に盛ってできあがり。
昔の韓国の主婦たちは、干しダラを1匹丸ごと買い、自ら手を加えた。まず、買ってきた干しダラに水分を含ませてガーゼで包み、棒で叩いて柔らかくし、手で裂いてスープを作ったという。干しダラを棒で叩くときは、酒に酔って帰ってきた夫へのぐちをこぼしながら叩き、ストレスを解消した、という笑い話もある。
ヤン・ヒャンジャ氏略歴
世界飲食文化研究院の院長・理事長、韓国フード・コーディネーター協会の会長を務めている。世界飲食文化研究院は、韓国の伝統的な食文化や、世界中の様々な食文化に、人々がより手軽に接することができるよう、食文化の研究や指導に力を入れている。日本語のホームページを開設しており、韓国の食べ物だけでなく、世界の食べ物についても紹介している。(http://www.wfcc.or.kr/jap_new_sub.asp)
記事=イ・ヒョンジュ, 写真=チェ・ヨンデ