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「ジューッ!」雨の日はなぜか食べたくなるジョン(上)
日本がお好み焼きなら、韓国には「ジョン」がある。日本では「チヂミ」と呼ばれることが多いが、韓国では「ジョン」というほうが一般的だ。入れる材料により、キムチジョン・ホバク(ズッキーニのようなカボチャの未熟果)ジョン・キノコジョン・トウガラシジョンなどがある。お好み焼きのように手軽な「ジョン」から、「コリアンピザ」とも呼ばれる大きめの「ピンデトク」にいたるまでさまざまだ。ジョンは最近、日本でも人気のマッコリ(韓国どぶろく)とも相性ピッタリ。一番庶民的でありながら、もてなし料理にもなる、ジョンのお話をどうぞ。
ジョンとは
かつては「煎油魚( ジョニュオ)」「ジョニャ」とも呼ばれた。辞書には「 フライパンに油を敷き、材料を薄く切った後、小麦粉をまぶし、溶き卵に水を加えたものをつけて焼いた料理の総称」とある。韓国料理には揚げ物がほとんどない代わりにジョンが発達し、むかしから野菜・肉類・魚介類などさまざまな材料をジョンにして食べた。日ごろのおかずとしてはもちろん、年中行事の料理や酒のさかなにもなるくらい、何にでもよく合う、韓国人の大好物だ。
いつごろから食べられ始めた?
朝鮮時代末期の19世紀末に書かれた料理本『 是議全書』には「 ジョニュオを祭 祀(さいし)の供え物にするときは『 肝南』といった」という言葉が登場する。このため、ジョンは朝鮮時代から作られ、祭祀( 先祖の供養)の料理に使われるほど貴重な料理だったことが分かる。
ジョンの種類
料理店では一品料理とされているジョンだが、どの家庭でも手作りのジョンを焼いて食べることから、その種類はとてつもなく多い。冷蔵庫にあるあり合わせの材料で、その日その日のジョンが生まれるというワケ。祭祀の供え物として欠かせない「タラのジョン」や、韓国を代表する食べ物であるキムチを入れた「 キムチジョン」は、韓国人なら誰も知っている。このほかにも、ミニハンバーグをジョンにした「トングランテン」、トウガラシの種を取り、肉詰めにした「 トウガラシジョン」、エゴマの葉に肉を載せて焼いた「 ケンニプジョン」、カキを材料にした「カキジョン」などがある。また、ピザのように丸く大きく焼いた「 魚介ネギジョン」、ジャガイモをすり下ろして焼いた「 カムジャジョン」など、実に種類が多い。
ジョンとピンデトクの違いは?
ジョンもピンデトクも熱いフライパンや鉄板の上に油を敷き、焼くという共通点があるので、ひとくくりにして「 プッチムゲ(」薄くのばして焼いたものという意味)と呼ばれることもあるが、細かく見てみると、はっきりとした違いがある。これまで見てきたように、ジョンの材料は野菜・肉類・魚介類など。ジョンは材料に小麦粉や溶き卵をつけて焼くのに比べ、ピンデトクの主な材料といえば本来は緑豆。これをひいて粉にし、その中に野菜や肉を入れて焼いたものをいう。
ジョンが食べたくなるのはどんなとき?
韓国人にとってジョンは、なぜか雨が降る日に食べたくなる料理だ。雨がしとしと降り続いていると、大勢の人々がジョンを売る店に駆けつけ、マッコリを飲みながら味わったり、家でジョンを焼いて食べたりする。その理由については、いろいろと言われているが、その一つは「 湿気が多く、気温が下がると、体温を調節するため、体が自然と油っ気のある料理をほしがるから」というもの。このほかにも、「ジョンを焼くときの『 ジューッ、ジャーッ』という音が雨音に似ているから」という説や、「雨が降る日は低気圧状態で上昇気流が発生するから、おいしそうな油のにおいが広がりやすいのでみんな食べたくなる」という話もある。科学的な根拠はともかく、韓国人にとって、雨が降る日とジョンは切っても切れない関係なのは本当だ。
記事=イ・ヒョンジュ、写真=キム・ソナ/チング