14年前、韓国を世界に知らしめ、「新韓国人」に選ばれた後、2005年に韓菓(韓国の伝統的なお菓子)名人の称号を得たキム・ギュフン氏。名節(伝統的な祝日)のたびに数千個の韓菓を作り大統領官邸に送っている。世界的な行事がある際もキム館長の作業場は24時間稼動する。心のこもった韓菓だけが人を感動させることができると信じているからだ。

 現在韓国は西洋のデザート文化が大勢を占めている。チーズケーキや生クリームケーキ、クッキー、ワッフル、パンケーキ、カップケーキなどが飛ぶように売れている状況。「デザート」といえば女性の専売特許のようなイメージがあったが、最近では男性や子ども、中年層にまで広がりつつある。しかし、韓国の伝統菓子、韓菓については、関心を持ち、きちんと知っている韓国人は一体どれほどいるだろうか。国産の材料で作られる韓菓は、西洋菓子より健康的だという評価が出ると、最近の健康志向の高まりと相まって、韓菓のイメージも少しずつ変わりつつある。

 このような時勢のため、韓国で唯一韓菓を発展させる「韓菓院」の存在は大きい。韓菓の名人キム館長の情熱と愛情が込められている同院に行けば、韓菓に関するすべてを知ることができる。

-どんないきさつで韓菓作りの道に入ることになったのですか?

「妻の家が韓菓を製作していたんです。妻の父が作っているのを見るたびに、私がやればもっとうまくできるのに、という思いがしたのです。少し努力し、販路を開拓したところ、事業的な見通しが見えました。それで仕事をやめ、数年間苦労しながら学び独立しました。31年前の話です。自己流で製作を体系化し、市場を広げるために駆け回りました。信用と味が第一だと思い、納品日を守ることに最善を尽くしました」

-韓菓を作っていて忘れられなかった瞬間は?

 「2000年に韓国でアジア欧州会議(ASEM)がありましたが、その開催前に農林部が主催した伝統料理評価で韓菓部門の大賞(総理大臣賞)を受賞したのが、ターニングポイントとなりました。それまではデパートも知らないブランドだったのですが、2カ月間の努力の末に国に認められるという大業を成し遂げることができました。当時各国の首脳が集まる夕食会で公式デザートとして出されたのですが、大好評でした。油菓(油菓子)と蜂蜜の薬菓(揚げ菓子)をお出したのですが、ある方は大変おいしいと言って追加を要求なさるほどでしたが、数量が限られていたのでお出しすることができませんでした。その後、出店が困難だったデパートから入店のオファーがありました」


-世界的に有名な料理学校「ル・コルドン・ブルー」の招待を受け現地実演し、日本の料理祭りにもよく参加なさいましたよね。

 「ある日、ル・コルドン・ブルーから『韓菓の授業をしてくれないか』という連絡が来たんですよ。もちろん承諾しましたよ。あんなに有名なところから連絡が来たのに行かない手はありません。現地の反応は本当に凄かったです。韓菓が珍しいということもありましたが、その色つやが本当にきれいで、味が絶妙だと称賛されました。そのときに韓菓が世界を魅了できるものになり得るという確信が生まれました。しかし、韓国では50代以降の人々に愛されているに過ぎません。それで私が子どもたちに関心を持つよう取り組んでいるし、さいわい韓菓を習いたいという学生が増えています。西洋のデザートを習う学生が増えているように、韓国のデザートを教えることができる最新式の学校とマスターが生まれればと思っています。日本にはよく行きます。彼らの和菓子を研究し、日本人が好む味を追求するため取り組んでいます。韓菓も日本人が好む菓子だと思うのですが、販路を開拓するのは容易ではありません。にもかかわらず、多くの日本の方が好奇心で空港やデパートで韓菓を買っていくみたいです。新宿でほんの数時間でもいいから実演会を行い、韓菓の味を伝えたいですね」

-韓菓の種類と特徴を教えてください。

 「大きくは油菓、薬菓、ヨッカンジョン(飴で固めたおこしのような物)、茶食(落雁のような物)に分かれます。油菓は、餅米の粉に大豆汁、酒を入れ、練って作った餅を細く切って干したのを揚げたものです。カンジョン、サンジャ(油菓の一種で、挽いた豆がまぶされた四角形の物)があります。油菓は油密菓ともいいますが、穀物の粉と蜂蜜、油、酒を入れて型を作ったあとに揚げ、蜂蜜液に漬けます。最もポピュラーな薬菓です。ヨッカンジョンは堅果類または穀物を炒め、それを水飴液に漬けた後に固めて薄く切った物です。豆やごま、ピーナッツなどがよく使用されます。茶食は、炒めた穀物類の粉や松の実の粉を蜂蜜で練り、茶食板という型に入れて模様を入れた物で、通常は冠婚葬祭の席で出されます」

-名人の夢を教えてください。

 「年間に数回外国に行き、韓菓を伝えるために奔走していますが、まだ外国人の認識を変えるのは難しく、一人の力では限界があるみたいです。政府レベルで支援が得られたらと思っており、基本的には一般の方々がもう少し興味を持っていただけたらと思っています。専門家を育成したい思っており、学会で韓菓の栄養価について発表されるとうれしいです」

 韓菓の名人、キム・ギュフン氏は以前、MBCテレビの『成功時代』というドキュメンタリー番組とKBSテレビのアニメーション『人間劇場』で紹介されている。彼の成功はひとえに、韓菓に対する確信と熱情だけ成し遂げられたものであることを示しており、たゆまぬ努力で名人になった彼のストーリーは大きな感動と反響を巻き起こした。

 彼の事務室に行くと、直筆で書かれた「他人と同じことしてもそれ以上にはなれない」という額縁が掛けられている。それは情熱の強い信念で成し遂げられるということを実感させるフレーズだった。

記事=オ・スンヘ
写真=チョン・ソクビョン

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