映画
オダギリジョーが韓国で有名になりたくないワケ
彼はタバコをくわえて現れた。「韓国の新聞では、タバコを吸っている写真は使いません」と言うと、「あ、そうですか? 禁煙していたんですが、緊張して」と笑った。声は低く、動作の一つ一つの線が太い。映画の中の「春彦」よりも、確かに男性的だ。
ゲイの老人ホームをテーマにした日本映画『メゾン・ド・ヒミコ』で、同性愛者の主人公春彦役を演じたオダギリジョー(30)。微妙な素材にもかかわらず、わずか7カ所の劇場で7万5000人の観客を動員し話題になったことから、韓国を訪問した。折しも、オダギリが出演した日本映画『パッチギ!』も韓国で上映中であり、最近韓国ファンが目に見えて増えてきた。
「映画が有名になるのはいいけど、私が有名になるのは嫌です。有名になったら、韓国に来たくなくなりそうです。海外に行くときは、自由になりたくて行くじゃないですか。パンソリのような韓国文化がとても好きなのに(パンソリのCDを3枚も持っているという)自由に来られなくなったら、残念です」。顔を売ろうと必至な俳優たちとは全く異なる答えだ。
玄界灘を越えて来たオダギリジョーの名の前には“日本最高のイケメン俳優”という形容詞がつきまとうが、日本ではかなりの演技派俳優として名を馳せている。日本の俳優の中では珍しく米国に留学している。日本の理工系大学に合格したが、映画監督になりたくて米国に渡った。それもハリウッドに近いところで学びたいと思い、カリフォルニア州立大を選んだ。しかし、英語に不慣れで映画学科と名前が似ている演劇学科を誤って選んでしまったというオダギリ。「“バカ”だったので失敗したが、結果的に演劇を学んだことが演技をする上でもっと役だったようです。人生ってそんなもんでしょ」
オダギリは、映画なら何でも出演するというのではない。「他人の恋愛をのぞき込むのは苦手」と恋愛映画には出演しない。誰にでもできる役も嫌いだという。『メゾン・ド・ヒミコ』に出演した理由は、「いろいろな愛の形態を内包した哲学的な映画だから、ためらわず出演を決めた」と話した。
韓国映画『オールドボーイ』を見て感銘を受けたというオダギリは、機会があったらアジア合作映画に是非出演したいという。「米国映画に出演した日本人俳優を見ると、変な感じがします。結局、私はアジア人です。共感できるアジアの情緒を演じてみたいです」