東京の気温が34度まで上がった13日、彼女は黒い襟巻きをして座っていた。クーラーで冷え切った室内のスタジオで彼女はまるで静物のようだった。宮沢りえ。韓国の男性にはヌード写真集『Santa Fe』(1991)で知られているが、32歳の彼女は今、日本で最も認められている女優だ。

 プライベートと係わる質問には氷のように冷たかったが、演技に関する質問には瞳を輝かして答えてくれた。宮沢は「30を過ぎてみて自分自身を表現することが出来る職業を持っていることが、どれだけ幸せなことか分かるようになった」と語った。

 「多くの韓国人はあなたを女優というよりは、『Santa Fe』のヌードモデルとして記憶している」と投げかけると、「今日は映画の話だけにしましょう」とキッパリ。確かに彼女にしてみれば忘れたい記憶だろう。



 19歳でヌード写真集を発表、翌年には当時の相撲界のプリンス貴花田との婚約破談など、芸能界を騒がせた宮沢は一時期低迷したが、2001年に香港のヨン・ファン監督が手がけた『華の愛 遊園驚夢』(2001)に出演を果たし、日本を代表する女優に生まれ変わった。

 『華の愛 遊園驚夢』で美しき歌姫ジェイドを演じた宮沢は、この映画でモスクワ映画祭の主演女優賞を受賞、『たそがれ清兵衛』(2002)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、『父と暮せば』(2004)などの映画でも数多くの賞を獲得した。

 「受賞後に聞いた最も嬉しかった言葉は何か」という質問に彼女は、顔をほんのりと赤らめた。「賞というものは私に与えられるのではなく、監督やスタッフの皆さんが一緒に受賞するものだと思う」と模範解答的なことを言うと、「それよりも観客から演技が良かったと言われた時がもっと嬉しい」と強張った表情を和らげた。



 今回公開される『トニー滝谷』は村上春樹の短編集を原作にした作品。孤独と喪失を描いた作品だが、731着の服を残して世を去った「ショッピング中毒の女性」とその服を後で着ることになる女性の話としても見ることができる。「実際にショッピングのし過ぎで叱られたことはないか?」と冗談で聞くと、「衝動買いはしない」とまたしてもキッパリ。

 彼女は15年前に服を脱いだ時よりも、かなり痩せたように見えた。鎖骨の輪郭がそのまま現われている彼女に「ちゃんと食べているのか?」と聞くと、「お酒もよく飲む」と答えた。そして「こう見えても一か月間くらい公演が続いても大丈夫。普通の人のエネルギーの5倍はある」と得意げに言う。

 秘訣を聞いた。彼女は「好きな事に専念すれば自然と力は湧いてくる」と答えた。

 アイドルではない女優がそこにいた。

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