口の中がただれてしまったという。

 メーキャップを終えた韓流スターペ・ヨンジュンのビジュアルは大型ブロマイドの肖像のように完璧に見えたが、いざ、胸の内は真っ黒に焦げてしまっているようだ。隣に座っていた許秦豪(ホ・ジノ)監督もたばこを一本取り出す。

 24日午後、ソウル・小公(ソゴン)洞のロッテホテル新館のルーム。許監督が演出し、ペ・ヨンジュン、孫芸珍(ソン・イェジン)が主演した映画『外出』(日本タイトル:四月の雪)の23日の初の試写会後に行う初のインタビュー。

 前日夜、友人のお父さんが突然亡くなられ、原州(ウォンジュ)に行って来たというペ・ヨンジュンは、「私も一本吸っていいでしょうか」と、遠慮がちに聞いた。


 「映画を一本終える度に、俳優が口癖のように言う言葉ではありますが、今回、私は本当に辛かったです。私は性格上、アドリブさえ事前に計算して実行に移すんです。キャラクターも完璧に準備します。しかし、許監督はそれを徹底して止めたんです」

 『外出』は配偶者の不倫を知った2人の既婚男女の混乱と、そのとんでもない状況の中で生まれる新たな愛の感情についての物語。ペ・ヨンジュンは妻の不倫に怒り、崩れ落ちるコンサートの照明監督インスを演じた。

 『8月のクリスマス』と『春の日は過ぎゆく』で特有の敍情的な感性を披露した許監督は、“計算された準備”よりは“現場の自然な感じ”に重きを置く性格。

 納得がいくまで繰り返される撮影で、俳優をへとへとにさせることで有名だ。今回はどうだったろうか。しばらく様子を見ていた許監督自ら“自首”した。

 「撮り直しまであわせ、一つのシーンを60回まで続けたことがあります」

 お茶目に監督を睨みつけたペ・ヨンジュンは、「監督がそのシーンのOKサインを出した後、その場で気絶してしまいました。1時間ほど力尽きて起き上がれなかったんです」という。

 一体どんなシーンでそんなに? 聞いてみると、あまり意味のあるシーンではなかった。妻の交通事故と不倫を知ったペ・ヨンジュンが、自分の後輩に電話をかけるシーン。


 許監督は「そんなに度重ねる撮影が、果たして効率的かという疑問もあるでしょうが、撮影を重ねていくたびに新しい感じが出てとてもよかったんです。結局、一番最後に撮った60回目のシーンを使ったんですが、満足できました」

 完壁に対する強迫は、俳優と監督、双方から共通して感じられたが、今回の映画『外出』とペ・ヨンジュンの演技に対する評価は分かれている。監督に、「試写会の後に聞いた話のうち、『一番ありがたい話』と『一番不愉快だった話』は何だったのか聞いてみた。許監督はしばらく考え、「俳優が良かったという話が一番ありがたかった」と話した。

 2番目の質問には、「直接聞いた話のうち、不愉快な話はなかった」という。「間接的に聞いた話ではあったのか」としつこく質問すると、「忘れた」と交わしてしまう。

 そして、映画の中のベッドシーンに話題を移し、「同窓(延世(ヨンセ)大学哲学科)先輩たちがこの映画を見たが、ヨンジュン氏の体のため、妻には映画を見せられないと話していた」と言って笑った。

 同じ質問に、ペ・ヨンジュンは「剥製の額縁の中から脱皮できたという表現が最もありがたかった」とした。2番目の質問には、“先任者の教訓”に習い、「忘れた」と答えた。


 インタビューの終わり、遅い昼食をサンドイッチで済ませながら、ペ・ヨンジュンは感情の扉を少しだけ開けて見せた。アジアどこへ行っても歓声を上げるファンに取り囲まれた韓流スターだが、自由と私生活のない鳥篭の中の生活。

 ペ・ヨンジュンは胸を叩いて見せながら、「牛黄清心丸まで飲むくらいだから、よっぽどですよ」と言った。「先日、本当に久々に漢江(ハンガン)沿いを1時間余り走りました。心臓は爆発しそうでしたけど、それでもスカッとしていい気分だった」。

 ペ・ヨンジュンが「私たちのような人間は、撮影現場で感情を爆発させるほかない」と泣き言を言うと、許監督が「だから、早く次の作品やりなさい」と慰める。

 30階ホテルのルームの窓の下、高い百貨店の外壁に掛けられたペ・ヨンジュンの大型ブロマイドが見えた。

ホーム TOP