カンヌが愛する韓国人監督、洪尚秀(ホン・サンス/45)。開幕一週間前、洪監督に相変わらずの愛情を示したカンヌ映画祭は、彼が作った6本の作品のうち4本にプロポーズした。

 『江原道の力』(1998)と『オー!スジョン』(2000)を「ある視点」部門に出品した洪監督は昨年の『女は男の未来だ』に続き、韓国公開(27日予定)を2週間後に控えた『劇場前』(『映画物語』)で2年連コンペ部門への出品を決め、今年もレッドカーペットを踏む。

 『劇場前』は映画を観て映画館から出て来た映画監督志望のドンス(金相慶(キム・サンギョン)扮す)が、映画に登場した女優(オム・ジウォン扮す)とばったり会い、結局一夜を過ごしてしまうという劇中劇形式のコメディー。

―開幕直前の追加ノミネートは既に一週間前に連絡を受けていたと聞いたが。

 「絶対に教えてはならないと何度も口止めされた。ティエリー・フレモー執行委院長から急に連絡があって出品が決まった」

―カンヌには好評だが、韓国の観客には反応があまり芳しくないようだ。今までに損益分岐点を超えた映画が一つもないが。

 「それだけに直接制作を引き受けた。この前の『女は男の未来だ』が純制作費だけで17億ウォンだったが、今回の『劇場前』は約8億ウォン減らした。元々数字的なことはまったく頭になかったが…(笑)。20万人位は入ると見積もれば数字が合うらしい。他人に迷惑をかけてはいけないと思っている」

―10年間、映画監督になることだけを夢見るドンス(金相慶)は自分が観た映画を現実に模倣しながら暮している。洪監督の特徴である対称の形式への回帰に見えるが。

 「私は伝統的なドラマ的構造そのものを壊したかった。単線構造で進む起承転結はハリウッドが数十年間に完成させたフレームだ。私は単線構造にはしたくなかった。それで見付けたのが対称というものだった。ところが4本の映画を撮っているうちに飽きてしまって『女は男の未来だ』は単線構造にしたいと思った。そうこうしているうちに再び回帰していた」

―映画に登場するサンウォンは「マルボロレッド」だけに固執してドンスは焼酎に杯を傾ける。映画界の人間は誰かの習慣をスクリーンに移したと言う。他人の癖に敏感なようだが。

 「例えば友だち5人が集まった席でAは明日の試験が心配でしょうがないと仮定しよう。ならばBが新しいジッポーライターを買ったことも、Cの髪の毛が一握りほど抜けたことも全く目に入ってこないだろう。しかし、私はそうしたことをよく見て、記憶するタイプだ」

―主役の金相慶、オム・ジウォン、イ・ギウは映画で酔いつぶれる。以前の作品でも同じだったように、酒が洪監督に与える最大のプレゼントとは何か?

 「『オー!スジョン』の時もそうだったし、『生活の発見』の時も随分と食べた。でも、今度は大幅に減らした。焼酒しか知らなかったが、この頃は百歳酒も飲む。小説家のキム・スンオク先生にお会いしたが、焼酒は飲まないように言われた。一日2箱ずつ吸っていたタバコも胸が痛くなって3か月前にやめた。それでも酒をやめることは出来なかった。酒は人間同士が何も考えずに時を過ごすことが出来るようにしてくれる。他次元の交流だ」

―洪監督の世の中に対する態度を「冷笑的」「偽悪的」と表現したら同意するか?

 「同意することは出来ないが、『私は道徳的だ』『私たちは立派な家族だ』と思う人がそんなことを言うかも知れない。映画の中で悪い人間は罰を受けなければならないが、私の映画では何とかして逃れる。人によって非違に対する考えに差があるようだ。私の映画を最後まで笑いながら楽しがる人も多いのだが」

―6本の洪作品についてある人は「同語反復」と言い、ある人は「作家主義」と言うが。

 「作る側にも限界がある。映画でも文学でも美術でも、自分のジャンルに数十年取り組んできた人間が完全に方向転換でもしろと言うのか?範囲を広げ、他人でも分かるような変化は一度あればいいのでは。ほとんどの人間は自分の原則を磨き上げて年と共に経験を積んでいくのだろう。そして運と材料が一致すれば今までにはない新しい結果を生む時もある。

それが現実であり人生だろう」

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