映画
俳優・薜景求がつづった『力道山との出会い』(1)
15日に公開される映画『力道山』は俳優・薜景求(ソル・ギョング)の華麗な変身ぶりを見ることが出来る。
薜景求は「勝利した者だけが笑うことができる」と言った力道山という人物をほぼ完璧に演じきった。
プロレス、日本語など、いくつもの難関をクリアして力道山の内面に到逹するまでを薜景求本人がつづった『力道山との出会い』を3回にわたって掲載する。
去年の春、サイダスのチャ・スンジェ社長から電話がかかってきた。
「お前じゃなきゃだめな仕事がある」
「社長、崔岷植(チェ・ ミンシク)さんにでも出てもらって下さい。私にはできません」
恐ろしかった。一から体を鍛えなおさなければならないし、プロレスまで学ばなければならなかった。いくら役作りが得意な私でも台詞が日本語では…。
それに 『実尾島』(日本タイトル『シルミド/SILMIDO』)の撮影を終えたばかりで、準備をする時間も少なすぎた。ところがいつの間にか私が『力道山』に出演することになっていた。それでも私はソン・ヘソン監督と何度も押し問答をして出演を断った。
春から夏へと季節が変わり、最終的には『力道山』に出演することを決めた。出演を決めた理由は二つあった。
何かある度に「お前が出ないなら私が出る」と言っていたチャ社長の言葉。もちろん、そんな冗談は誰も信じないだろう。ところが、その当時、サイダスは財政的に苦しく、「お前が出なければ映画はオジャンだ。すでに投じた額は10億ウォンだ」と酒の席で大きな図体をした社長がこぼしているのを聞いて、何だか可哀想になって泣けてきてしまった。「社長がとても可哀想です。自分が力道山を演じます」。私はそのお方がとても好きなようだ。
もう一つの理由は自分自身を試してみようと思ったからだった。シナリオを受け取った時の最初の印象が「力道山の登場しないシーンがない」ということだった。
『ペパーミント・キャンディー』でデビューしてから5年。当時の自分と変わった部分があるか?余裕も出来、ハングリー精神もなくなって、今でも一人で映画を引っ張っていくような力があるのか?私が変わったかどうかを試してみようと思った。
このまま楽をして生きて行くこともできた。それでも苦労するのは明らかだったが、このままではいられなかった。
そして『実尾島』の打ち上げパーティーの翌日(去年の10月)には、ボラメ公園にあるアクターズスクールに通っていた。 「明日からやればいい」では先延ばしになるのが明らかだったからだ。
精神的にも余裕がなかった。私は体を動かすことが苦手だ。何をやってもうまくかない。ところが何故かアクションスクールでは最も多く出席した俳優になっていた。
私は元から飽きやすい性格で一つのことを続けることができない。だから、ある日は一日中、卓球ばかりをして、ある日はバスケットボールだけをやった。毎日、ボラメ公園で遊びながら楽しんだ。ウエートトレーニングもしながら食べたいものを食べた。
役作りのための半年間は非常に忙しかった。一週間に3回、午前10時から5時まで、プロレスラーを相手に試合の練習をした。そして、一週間に2回、日本語を学んだ。プロレスの試合の練習をする時は、ため息ばかりが出た。体は大きくなるばかりで動きが鈍く、そんな状態で技を叩き込んだ。レスラーが見本を見せてくれたので、私は渾身の力を振り絞ってそれをマスターしようとした。
人の高さ程あるコーナーから飛べと言われた時には目の前が真っ黒になった。誤ってマットの外に落ちたらどうしようと生きた心地がしなかった。多少のけがは数え切れないほどした。イ・スイル師範(トレーナー)が毎日「怖がらないように」と言ってくれたが、どうしてもだめだった。私が大けがをしたら撮影が台無しになると思うとプレッシャーを感じたからだ 。
それでも、お陰で体は鍛えられたし(体重28キロ増)、私を見た李滄東(イ・チャンドン)監督には本当に驚いた表情で「チンピラの雰囲気が漂っていて感じが出ている」と言われた。
そして、いよいよ日本に出発する日が近づいてきた。