「1か月間毎日300球ずつ投げました。プロの投手でも先発したら100球程度投げて何日か休むんですけどね。なので最後まで肩に湿布と氷を当てっぱなしでした。それでも仕方ありませんでした。私は左利きでもないし野球は小学生の頃にやって以来でしたから」

 右利きの俳優、李凡秀(イ・ボムス)は『スーパースターカム・サヨン』で左投げ投手のカム・サヨンを演じるために練習をするしかなかった。俳優が特定の役を演じるためにダイエットをしたり、弾いたこともない楽器に挑戦したりするのは、ある意味リストラの恐怖に怯えるサラリーマンが出勤前に英会話教室に通うことと大した差はない。

 ところが、砲丸のように感じたボールが手に馴染み始め、とんでもないところに飛んでいたボールが捕手のミットに突き刺さるようになると状況は変わった。「代役の投手を使おう」という監督の言葉を聞かずにプロ野球の左腕投手を完璧に演じきったのは、こうした李凡秀のプロ根性とプライドがあったからだろう。

 「負けて終りなのではなく、負けたから明日は勝てるという可能性や希望を持つということを伝えたかったです。一番になった人や勝者の努力を否定するのではなく、自分のベストを尽くす過程や忍耐の過程に拍手を送るような映画にしたかったのです」

 プロ野球元年に最下位だった三美(サンミ)スーパースターズのカム・サヨン。 彼の3年間の成績は1勝15敗1分けだった。映画に敗戦処理専門投手として登場する彼は、誰もが恐れるOBベアーズの投手、朴哲淳(パク・チョルスン)の20連勝決定戦にいきなり先発として投入される。結果はもちろん惨敗に終わった。

 今でこそ李凡秀の演技に疑問を投げかける人は少ないが、彼は苦労した無名時代と今回の映画を重ね合わせて当時を思い出したという。

 「シナリオを初めて読みながら無名時代のことを思い出しました。『絶対に自分が演じてみせる』と強く感じました」

 中央(チュンアン)大学演劇映画学科に在籍した当時、「演技では誰にも負けない」という自信を持って生きてきた彼にとって映画出演は夢のまた夢だった。95年に受けたオーディションでは「誰がお前を俳優として使うのか、特別ルックスが整っているわけでなく背も低いくせに」という厳しい言葉まで浴びた。

 それでも李凡秀は決して諦めず、オーディションに落ちた当日にまた別のオーディションを受ける執念を見せた。どんなに短い役でも映画に出続けた李凡秀は、『太陽はない』で借金取りを演じて以降、ようやくスポットライトを浴びるようになった。初主演作となった『ジャングルジュース』以降、すでに7本もの映画の主演を務めた。そして今回の映画で完全に一人の力で映画を引っ張っていく本当の意味での主演を務めることになった。

  「宋康昊(ソン・ガンホ)さんの『反則王』のような感じでしょうか。今回ほど単独で映画を引っ張ったことはありませんでした。責任、使命、満足、興奮といったすべての要素が入り混じっています」


  どん臭い田舎者やコミカルな印象の強い彼のキャラクターを記憶する観客にとってカム・サヨンというキャラクターは多少ぎこちないかもしれない。

 李凡秀は大きく深呼吸してからこう語った。

 「ものすごく大ヒットした幼稚な内容の映画よりは、中身があって心で観客と共感することができる映画にこれからも出たいです」

 今までに李凡秀が出演した映画は全部で25本。観客との共感を最も重要だと考える李凡秀に公開を控えた率直な気持ちを聞いてみた。彼はしばらく考えてからこう語った。

 「落ち着きませんね。でも、評価を待つような気持ちではなく、パーティーを目前に控えたような気分です。もし不評であれば次にもっと頑張ればいいし、逆に評判がよければどんどん観てほしいです。

そうやって映画を撮ってきたし、これからも同じようにやっていくつもりです」

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