スクリーンのイメージと日常の姿が宋康昊ほど異なる俳優が他にいるだろうか。『ナンバー3』から『殺人の追憶』に至るまで、多血質で無鉄砲な行動と憎めないヤクザ役で観る者を圧倒したが、実際の宋康昊は概して内気で考えが多くて口数が少ない。

 イム・チャンサン監督のヒューマンドラマ『孝子洞理髪師』の公開(5月5日)を控えて清潭(チョンダム)洞のカフェでインタビューした宋康昊は非常に低い声で話して物静かだった。

 宋康昊は今回、大統領府の専属理髪師「ソン・ハンモ」を演じる。天然でどこか抜けているこの男は、激動の時代の中で数奇な人生を送る。今回もやはり一匹狼的な役を演じるが、心優しい父親としての一面も見せる。

 「寓話のような印象を受けました。歴史的な大事件を描いた映画が多いですが、一つの時代を論理の代わりに直接肌で感じるような映画とでも言いましょうか…」

 ケネディ暗殺、ウォーターゲート事件など、米国の時代を象徴する事件で綴った『フォレスト・ガンプ/一期一会』のように『孝子洞理髪師』も同様に4.19革命の真っ只中でソン・ハンモの妻(文素利(ムン・ソリ)扮す)が息子のナガンを出産するといったフィクションで観客を引き付け、現代史を反芻する。

 宋康昊は「子供のために生きた父親たちの錯雑かつ笑わせる涙の物語」としながら、「辛い時代を高校の美術教師として過ごして今も元気な私の父親のことが撮影中ずっと頭から離れなかった」と語った。

 あまりにも真面目に答える宋康昊をリラックスさせようと「あなたは映画の中では本当に無茶をやるが、実際にはなぜこうまで違うのか」という言葉を投げかけた。すると突然、大声で豪快に笑い出した。「そうなんです。私は人見知りが激しいのです。初めての人とは10回以上会わないと親しくなりません」。

 では『殺人の追憶』でソウルから来た刑事を犯人と見間違えて「ここが強姦天国か!」と蹴り飛ばした多血質な刑事のキャラクターは一体何を手本にしているのか。

 「ないものを作り出すわけではありません。実際に私の中にはヤクザ気質や多くの相反した側面が潜在しています。誰でも同じだと思いますよ。その中から一つの引き出しを開けただけです」

 宋康昊は今回、理髪師になるためにどんな準備をしたのだろうか?それは実際にカットの練習を繰り返すことだった。お年寄りに謝礼を渡して実習もしたが、どうもお年寄りの頭に悪戯をしているような気がして、結局はスタッフを練習台にしたという。

 そんな宋康昊に髪の毛を間違えて切られて丸坊主にしてしまったスタッフが一人や二人ではない。しかし、最も気を尖らせたのは現代史の荒波に揉まれて生きる小市民の表情を演じることだった。

 「今までは私が主に目立ったキャラクターを演じて映画的な楽しさを感じてもらおうと努力してきましが、今回は目立たないキャラクターながらも人物が生きる社会的な雰囲気と時代の情緒を伝えようと一生懸命になりました」

 宋康昊はロバート・デ・ニーロのように都会育ちではないが「田舍臭くて何もない町(慶尚(キョンサン)南道・金海(キムヘ)郡)で育った人間として下町の人々の姿を特別な想いで見守ってきた」と語った。

 ある意味、宋康昊の名演はそうした視線の中で熟成されたのかも知れない。宋康昊は「自分でも今の私は演技に集中していると思う」と話した。

 「お酒以外にこれといった趣味もありません。家にいる時もあまり話しませんし、何もしません。テレビの前で物思いにふけていることが多いです」

 宋康昊の口数の少なさは情熱をスクリーンにぶつけるための仮の姿なのだろう。それでは、努力が宋康昊という俳優を作り出したのか?

 「あなたは過去に『俳優は努力してなるのではなく、そのままの姿でいること』と言ったが、それではあなたは天才なのか?」と聞くと宋康昊が再び豪快に笑い出した。「それは…素質を持って生れた人が努力をさらにして俳優になるということです」。

 ハイトーンの慶尚道方言を早口でまくし立てる彼の土俗的な表情から再び『殺人の追憶』の馬鹿正直な田舍刑事、パク・ドゥマンの顔が浮かんだ。

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