「ヤクザなんて一人もいませんでしたよ」

 映画『木浦は港だ』の2つのキーワードは「郷土」と「ヤクザ」。早くは70年代後半からソウルに上京した木浦(モッポ)出身の暴力団員たちが築いた伝説のおかげで、木浦は今までも「ヤクザの街」だと思われている。

 しかし、映画撮影のために3カ月ほど木浦で暮した車仁杓(チャ・インピョ)は「撮影期間中の最後まで喧嘩を売るような人は一人も見なかった。どこへ行っても撮影の時は何かと地元の人からクレームがつくが、今回のように何事もなく撮影を終えたのは初めて」と語った。そうした背景には立ち後れた地域経済や職を求めて地元を去る人々のさまざまな事情があった。

 『木浦は港だ』はペク・ソンギ(車仁杓)が率いる暴力団組職にどういう因縁か潜入することになったソウルの刑事、イ・スチョル(チョ・ジェヒョン)が孤軍奮闘する物語だ。この映画で威圧的で強烈だが、喋り出せばボロが出る暴力団の組長役に大変身した車仁杓は、すっかり木浦礼賛論者になってしまった。

 「今まで全国津々浦々で撮影をしたが、これほどまでに反応の大きい土地は初めてだった」と言う。撮影が長くなるにつれ地元の人々が自発的に「木浦は港だ後援会」を結成し始め、食べることから宿泊のことまで何でも面倒を見てくれたお陰で『木浦は港だ』は無事に完成を迎えることが出来た。

 今回、車仁杓がヤクザを演じるのに最大の壁となったものは“方言”だった。そのため地元木浦の劇団「ゲッドル」の団員たちが付きっ切りで指導した。監督がOKを出しても、彼らが厳しく指摘すれば否応なしに再び撮影が行われた。

 実は映画の中で車仁杓の演技が最も光を放つ部分は、初めの「苦悩するヤクザ」としての姿ではなく、女性検事のイム・ジャギョン(ソン・ソンミ)にすっかり惚れこんで可愛らしい行動をする部分だ。ヒットドラマ『完全な愛』で年下の夫役を演じて女性ファンにかなりアピールできたお陰かも知れない。

 テレビでもコメディアンのキム・ジンスと共に『ハリケーンブルー』に出演するなど「壊れキャラ」になることを恐れなかった車仁杓は、今回の映画で再び印象に残るキャラクターを作り出した。

 自ら「今回ほど頑張ったキャラクターはなかった」と評価するミンギ役について周囲からは「ついに車仁杓が代表作として誇れる作品に出会った」と賞賛のを浴びている。

 車仁杓は『木浦は港だ』の公開直後に台湾へ向かい、3カ月間にわたって全40話のドラマ『盗心』の撮影に入る予定でいる。「ソウルより先に大邱(テグ)と釜山(プサン)で『木浦は港だ』の試写会を行ったが、反応が期待以上だったので地域感情が完全になくなる日もそう遠くはない」という言葉からして車仁杓という俳優は、やはり他の俳優とは一線を画すようだ。

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