コメディーなのにまるでホラー、『完璧な他人』ヒットのワケは

▲人気俳優が多数出演しているが、同作はキャストに依存するのではなく脚本と素材の力で笑いを誘う。左上からソン・ハユン、イ・ソジン、ユ・ヘジン、ヨム・ジョンア、キム・ジス、チョ・ジヌン、ユン・ギョンホ。/写真提供=ロッテ・エンターテインメント
▲ ▲人気俳優が多数出演しているが、同作はキャストに依存するのではなく脚本と素材の力で笑いを誘う。左上からソン・ハユン、イ・ソジン、ユ・ヘジン、ヨム・ジョンア、キム・ジス、チョ・ジヌン、ユン・ギョンホ。/写真提供=ロッテ・エンターテインメント

 映画『完璧な他人』が10月31日の公開以来、興行成績ランキング1位の座を守り続け、7日間で観客動員数は220万人を超えた。今年公開されたコメディー作品の中では最も勢いがある。この調子なら、今年最多の観客を集めたコメディー作品『それだけが、僕の世界』(約342万人)を上回るのではないかと予想されている。

 コメディー作品ではあるが、観客は「今年最高のホラー映画」との反応を示している。夫婦同伴の同窓会で、スマートフォンにかかってきた電話や届いたメールを互いに公開するというゲームの中で起こる対立を描いた作品だ。各自の人生において「忠実な侍従」役を務めていたスマートフォンがその過程で、秘密にしていた自分の性的嗜好から不倫、不動産詐欺の事実まで、何もかもバラしてしまう怪物と化していく。

 会社員のカン・ウンジョンさん(27)は「映画を見ながら大笑いする一方、肝が冷えた。ボーイフレンドと映画館を出て食事をするとき、バッグからスマートフォンを取り出すのが怖かった」と語った。映画市場分析家のキム・ヒョンホ氏は「スマートフォンであらゆるスケジュールや私生活を管理している韓国人なら誰もが共感できる素材が、観客をぐっと引き寄せた。政治・犯罪・戦争など重いテーマを描く韓国映画に飽きた観客が増え、昨年からはこうしたコメディー作品がヒットを飛ばし始めた」と指摘した。

 皆が共感できる素材のお陰で、映画館が小劇場のように盛り上がる雰囲気に包まれた、という声も多い。ソウル市九老区在住の主婦イム・ヒサンさん(44)は「映画館で観客がみんな一緒に爆笑しながら『あんなことって!』『うわあ、あの悪党』といった合いの手を入れていた。1980年代の映画館のように騒々しかったが興のある雰囲気だった」と語った。『完璧な他人』は、2016年公開のイタリア映画『Perfect Strangers』(邦題『おとなの事情』)のリメイク作品だ。イ・ジェギュ監督は「素材が持つ力が強く、原作の版権よりリメイクの版権の方が5倍も値が張った。韓国の状況と非常にうまくマッチしていると説明し、制作者を最後まで説得した」と語った。

 笑いを無理強いする演出がないという点も長所に挙げられる。ユ・ヘジン、チョ・ジヌン、ヨム・ジョンア、キム・ジス、イ・ソジンら人気俳優が多数出演しているが、作品はキャストに頼っていない。キャストらのセリフ回しや体を張ったギャグではなく、劇中のキャラクターが直面する大変な状況を一つ一つ突くことで笑いを炸裂させている。

 ユ・ヘジンは「誇張されたセリフや動作で笑いを誘うのは苦手だ。脚本を読んで、オーバーにやる必要はなく、ストーリーを追っていくだけで観客を笑わせる映画になるだろうという思いから出演を決心した」と語った。映画評論家のオ・ドンジン氏は「この作品は、互いを過度に拘束して一線を越えてしまったら関係が破局に至る、というメッセージを投げかけている。結婚より同棲を好み、婚姻関係は維持するが互いに干渉しない『卒婚』がごく普通のようになるなど、変化している韓国文化を絶妙に突いている点がヒットの理由」と語った。

ピョ・テジュン記者
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