大企業のオフィスを舞台にしたコミカルなドラマで、ナムグン・ミンは「社会人のヒーロー」になった。部下社員を苦しめる上司に大声を上げ、会計帳簿を操作する不正もただした。社会正義の実現には関心などない変人にもかかわらず、さまざまな状況が重なって、本意でないまま「義人」になっていく過程が愉快に描かれた。KBS第2テレビのドラマ『キム課長』は、ライバル番組のSBS『師任堂 色の日記』を第4話から抑え、視聴率競争の首位を最後まで守った。テレビCMの渉外担当が押し寄せ、ドラマが終わってもナムグン・ミンは休めないという。
番組では終始、高いトーンの声でもっともらしくしらを切り、ふざけたことをしていたナムグン・ミンだが、実際には低い声でゆっくりと話す。「『もとからああいう風に人を笑わせているのか』とみんな僕に尋ねますが、実際の僕は真面目で面白味がなく、バラエティー番組にも出られない人間です」。デビュー以来演じた役の中では、自分自身と最も隔たりのあるキャラだったという。「たくさん研究して、ささいなこと一つに至るまで計算しました。眉や顔の筋肉、手をひんぱんに動かして、声帯に力を入れながら、がみがみとしゃべるようにしましたね。少しでも気を抜くと普段の自分のくせが出るので、集中し続けるしかありませんでした」。結果は大成功。「一緒に演技をする俳優たちが、僕を見て大笑いして、『ああいうふうに笑わせるやつなのか』と思ったようですね」。
『キム課長』で初の単独主演の座をつかんだナムグン・ミンは、これまでは主役をねたんだり苦しめたりする恋敵、悪役を主に演じてきた。2011年の『私の心が聞こえる?』では、主演クラスの助演として傷と劣等感を繊細に表現し、大いに注目を集めた。「その時、演技をほめられて人気も出たので『これからは主役だけやる』と心に決め、主演でない役が来ても全部断っていた。それで結局、2年も休むことになった」という。
「意図せず空白期を経験したことで、悟りました。自然に流れてくるチャンスを、僕は無理矢理作り出そうとしたんだなと。その後は、作品を選ぶ基準を変えました。自分の役がどれだけかっこいいかということだけを、神経を使って見るようになりました」。台本や演出が良ければ、端役でも受け入れた。休むひまなく作品に出続ける中で「演技が楽しくなりはじめ、ストレスが消えていった」という。
昨年の、極悪無道な財閥2世として登場した『リメンバー 息子の戦争』、温かみのある町の弁護士を演じた『美女コンシム』に続き、『キム課長』まで成功に導いた。「依然として演技は難しく、僕はまだいろいろ足りないということを、『キム課長』を通して理解しました。初心に戻るきっかけになりましたね」。新たな目標もできた。「年を取ると、たとえいい演技であっても、毎回全く同じ演技をするようになりがちです。ほかの人の助言に耳を傾ける、勤勉な俳優になりたいですね」。今年が終わる前に『キム課長』を上回る演技で戻ってきたい―というナムグン・ミンの言葉に、自信が感じられた。