インタビュー:『密偵』ソン・ガンホ、「周囲の信頼は、健全な緊張をもたらす」

「後輩から注目される先輩という立場は、自分がだらけないようにしてくれますね」

インタビュー:『密偵』ソン・ガンホ、「周囲の信頼は、健全な緊張をもたらす」

 ソン・ガンホは、後輩の信頼を一身に集める俳優だ。大勢の俳優が、ロールモデルとしてソン・ガンホの名前を挙げる。同時に、作品を通して彼と出会うことを願って止まない。最近、ソウル市鍾路区八判洞のカフェで対面したソン・ガンホは、「後輩にとって羨望の対象」という話にこのように答えた。

「後輩だけでなく観客に対しても、全く同じ責任と負担を感じます。謙遜して言っているのではなく、作品をやっていくと、いつも何かが足りなくて残念な思いがあります。足りなくても「最低限、観客に対して恥ずかしくないように演技をしよう」と念じます。後輩や観客の期待は負担になるといっても、自分の緊張を保つ前向きな効果も与えてくれるようですね」

 映画『密偵』でも、同じような瞬間があった。ソン・ガンホ、イ・ビョンホン、コン・ユの三人が同時に登場するシークエンスでのこと。特にイ・ビョンホンとは、『グッド・バッド・ウィアード』以来8年ぶりの共演だった。三人が互いへの警戒を緩めることなく、この人物を自分の味方にできるかどうか絶えず「駆け引き」する心理戦は、この映画の名場面だ。銃声やアクションがなくとも、三人が交わす視線、表情、セリフだけで緊張がみなぎる。ベテラン同士の出会いは、なかなか見る機会がない。この場面を撮影する間、ほかの俳優やスタッフは息を殺して見守った。

「イ・ビョンホンさんとは久々に一緒にやる演技でした。撮影がないのに、大勢の後輩が現場にやって来て見守っていたようです。後輩たちがそうするので、自分もちょっと緊張を感じました。“ファインプレー”を飛ばさないといけないと思って、リハーサルのとき“お久しぶり、パク・チャンイ(『グッド・バッド・ウィアード』でのイ・ビョンホンの配役)”と言うと、イ・ビョンホンさんも“義烈団長パク・チャンイです”と応じましたね。一瞬、現場に笑いが生まれました。大したことではないかもしれませんが、自分たちにとっては面白く特別な撮影の思い出です」

 ソン・ガンホは『密偵』で、日本警察の朝鮮人捜査員「イ・ジョンチュル」を演じる。朝鮮総督府警務局で、朝鮮人として警部のポストにまで上ったが、生存という現実的な悩みと愛国という大義の狭間で葛藤する。イ・ジョンチュルは、ファン・ウクという実在の人物がモデル。このファン・ウクは、親日派なのか、親日派を装った義烈団員なのか、現在でも意見が分かれている人物だ。ソン・ガンホも、明確なラインを引かずに演技をした。

「二分法的に線を引く方が、むしろ演技しやすいですね。その点が、この映画の魅力だろうと思います。イ・ジョンチュルをもっと悪辣に表現する方がインパクトあるんじゃないか、イ・ジョンチュルが心変わりするきっかけが弱いんじゃないかという声もありますが、人の心は視線一つ、言葉一つで感化されるものではないでしょう。しかもこの映画は、イ・ジョンチュル個人ではなく、その時代に焦点を合わせた作品です。そういう点から、キム・ジウン監督の演出スタイルの方がスマートに迫ってきて、映画の後輩としてまた一つ勉強になりました」

 映画『密偵』は1920年代末、日本側の主要施設を破壊するため上海から京城に爆弾を持ち込もうとする義烈団と、これを追う日本警察との間の息詰まる暗闘や懐柔、かく乱作戦を描いた作品だ。キム・ジウン監督が演出を手掛け、ソン・ガンホ、コン・ユ、ハン・ジミン、シン・ソンロク、オム・テグなどが出演した。公開は9月7日から。

パク・ミエ記者
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