「許しが持つ二つの顔をかいま見る」=『今日』

9年ぶりにメガホンを取ったイ・ジョンヒャン監督

▲イ・ジョンヒャン監督。/写真=イ・ミョンウォン記者
▲ ▲イ・ジョンヒャン監督。/写真=イ・ミョンウォン記者

 「9年間、どこで何をしていたんですか」

 14日、ソウル・光化門でイ・ジョンヒャン監督(47)に会っていきなり、あいさつもそこそこにそう尋ねた。イ監督はデビュー作『美術館の隣の動物園』(1998年)で若い観客の感性を揺り動かし、2作目『おばあちゃんの家』(2002年)で400万人を超える観客を泣き笑いさせた。たった2作で評論家や観客の共感を呼んだこともさることながら、韓国映画界では珍しい女性監督ということで、注目はさらに集まった。そのイ監督が9年ぶりに新作映画『今日』で帰ってきた。

 「これまで何をしていたんですか」という質問に、イ監督は「映画を見れば見当が付くのでは?」と答えた。そして「『今日』は脚本作業だけで5年かかりました。この期間に読んだ本は、生まれてから読んできた本を全部合わせた数より多いほど。手のひら大の付せん紙にゴマ粒くらいの文字でアイデアをメモしてきましたが、5年間でそれが4000枚になりました。『今日』はデビュー前から構想してきた作品ではありますが、実際にやることにしてからは準備がたくさん必要でした。バランスの取れた視点を持つには、資料調査を入念に行い、脚本も何度も書き直さざるを得ませんでした」と説明した。

 『今日』は、男女の愛や世代を超えた家族愛といった心温まるテーマを描いてきたこれまでのイ監督の作品とは確かに違う。「許し」をテーマに、犯罪被害者と加害者の関係を描いているため、重く暗い。ドキュメンタリープロデューサーのダヘ(ソン・ヘギョ)は自分の誕生日に婚約者をバイクによるひき逃げ事故で亡くす。「許せばみんなが幸せになる」と信じて加害者少年を許し、1年後に「許し」をテーマにしたドキュメンタリーを企画、さまざまな事件の被害者を尋ね歩き、撮影を始める。ダヘは自分が許した17歳の少年のことを思い浮かべながら「きっと真面目に生きているだろう」と考え、淡々と撮影を進めていたが、偶然聞いたその少年に関する話に大きな衝撃を受けることになる。

 イ監督は「デビュー前に『リーダーズ・ダイジェスト』という雑誌で『許しの偽善』に関するコラムを読み、この作品を構想するようになりました。韓国社会の一部では、犯罪の犠牲になった被害者の人権はほとんど顧みられず、加害者の人権が優先されます。そのことに対し疑問を提起したかったのです」と話す。

 『今日』の登場人物たちは特にセリフが多い。ヒロインのダヘはもちろん、ダヘが取材する人物や、彼女に許すことを勧める周囲の人物たちも皆、「許し」について話し続ける。

 「せりふが多いため『映画の説明が長すぎる』『説教映画だ』という批判もありますが、せりふの行間をよく読んでみると『許さなければならない』という強迫観念にとらわれ、傷つく人々に関する映画だということが分かります」

 映画のテーマだけでなく、主演女優ソン・ヘギョも意外だという声が多い。ソン・ヘギョはドラマや映画で男たちに愛される役が多かった。「ソン・ヘギョさんの方から映画に出演する意向を示してきたのですが、そのときは『無理だろう』と思っていました。しかし、直接会ってみると、テレビドラマやCMで見せていた元気いっぱいの姿とは違い、非常に物静かで真剣で、大人だと思いました。これまで女優一人で主演を張る映画はほとんどなかったでしょう。私が脚本の作業に取り掛かっているというニュースが報じられたとき、ソン・ヘギョさん以外にも(出演を)期待した女優が何人かいたと聞いています」

 イ監督の次回作を見るには、また9年待たなければならないのだろうか。「テレンス・マリック(米映画『ツリー・オブ・ライフ』で今年のカンヌ国際映画祭パルム・ドール賞を受賞した監督。30年間で映画を5本撮っている)でもあるまいし、そんなに時間がかかるでしょうか。これまでは監督としての思春期を迎えていたため、少し時間がかかったようです。映画のおかげで幸せになったので、映画監督になりました。でも、実際に撮影現場に行く前日になると『あす地球がなくなればいいのに』と思うほど、映画を作るのはつらい作業です。それだけつらいのに、映画にしたいストーリーがあると、人とコミュニケーションしたくなります。また映画撮ろうと思うことでしょう」

「許しが持つ二つの顔をかいま見る」=『今日』

ピョン・ヒウォン記者
<記事、写真、画像の無断転載を禁じます。 Copyright (c)Chosunonline.com>
関連ニュース